春の温度

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「おまえも飽きないよな……」  ぽつりと、春川が言った。夜の帳が降りた東京をオレと春川は歩いていた。 「飽きるわけないだろ。なあ、次どこ行く?」  今日はプラネタリウムに行った。春川はお酒を飲まないので、夕食もそこそこにカフェに行った。そこは階段を下りて地下に行くようなカフェで、アルコールよりもカフェインのほうが好きだと豪語している彼は少し酔っているようにも見えた。 「おまえの好きなとこにしろよ」 「オレはどこでも楽しいから。春川なんかないの?」 「……俺の行きたいところに行ってもおまえ楽しくないだろ」 「え? 楽しいよ」  プラネタリウムは初めて行ったが意外と面白かった。過去にいた彼女に誘われてあんまり興味ないとか言ってしまった記憶があるような気もするけれど。星座の名前はさっぱりだったが、なんだか人工の星空とゆったりとしたアナウンスを聞いているだけでなんだか世界がいつもより美しいものに見えるような気がしたのだ。春川に言ったら馬鹿にされそうだから言わないが。 「……それに、」 プラネタリウムなんてふつう男と行かないだろ、と呆れた声で春川が言う。 「そうなの?」 「まわり、カップルばっかりだった」 「オレらもカップルに見えたかな」  オレがそう言うと、春川はそういう話じゃねえよと言って、それからため息を吐いた。  でも、オレはなんとなく気づいている。春川は最近、ため息を吐いたり、眉を顰めたり、呆れた顔をしたりしたあと、一瞬だけふっと気が抜けたように、やわらかい表情をするようになった。オレはそれに気づかないふりをしながらも、とてもたまらない気持ちになる。元々思ったことはすぐに言ってしまいたいタイプなのだ。それでデリカシーがないと言われて長続きしなかった恋愛もたくさんあるので、ここは指摘せず、ぐっとこらえたほうがいいのかもしれない。 「楽しかったし、てか春川と行けるならどこ行っても楽しいし、また行ってくれるなら行きたいよ」 「……」 「……ごめんオレが恥ずかしいからなんか言って」 「おまえはいつだって恥ずかしいよ」  ひどい、と言って肩を小突くと顔を顰められた。 「なあ、こんなことしてて楽しいのか?」 「今楽しいって言ったじゃん。春川、オレのことしつこいとかよく言うけどおまえも大概しつこいよな」 「おまえだけには言われたくない」 「オレら似た者同士ってことかな」  無視された。 「……人間の三大欲求が満たされてないだろ」 「なんだっけそれ、でもわりと満たされてるよ」 「は? ほかに女でもいんの?」 「え? 女? いないけど」 「でも俺とは寝ないんだ」 「うん」 「性欲ないの? EDとか?」 「いや? だってオレおまえで抜いたし」 「はぁっ?」  自分で思ったよりも大きな声が出たらしい。春川は口を押さえて、怪訝な顔をした。 「マジでなんなのおまえ、ムカつく」  頑固かよと言われたが、よくわからない。いろいろなことがわりとテキトーだし、頑固ではないと思う。ただ、一度決めたことがあまり曲げられない性格なのだ。 「やっぱ伝わってない感じがするんだよな。オレおまえのこと好きなんだけど」 「それは何回も聞いた」 「だから」 「だから?」 「抱きたいに決まってるだろ」  だからはやくオレのこと好きになってよ。オレの言葉にあっけにとられた春川の顔が、とても可愛かった。
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