春の温度

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 ファミレスのバイトにも身が入らず、彼がいなくなってから二ヶ月もたないうちに辞めた。大学の講義には行き続けたものの、内容はろくに頭に入って来ず、前期の成績はさんざんだった。毎回毎回、春川がいるんじゃないかと期待して、いないことを確認する、そのために出席し続けたようなものだった。  家族には酷い失恋をしたと思われているらしく、妹の環奈には何度も揶揄われた。完全に的外れというわけでもないから否定することもできず、やっぱりこれは失恋なのだと何回も思い知らされた。  春川にはこのまま二度と会えないのかもしれない。そう考えると、いつも身体中から力が抜けていくような心地がした。オレはオレがこんなにも春川のことが好きだったなんて、知らなかった。  だったら身体だけでも自分のものにしておけばよかった。オレは何度もそう思った。
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