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季節が巡った。まだ肌寒いが、桜のつぼみが膨らみ始めている。
春休みだが、履修登録に関係のある書類を大学に取りに行っていた。サークルの部室に顔を出す気にもなれないが、そのまま帰るのも嫌だったので乗り換え駅で降りた。そのまま大きいCDショップにでも寄ろうと思い、のんびりと駅の階段を下りる。
たまたま近道をしようと細い路地裏を入った、その時だった。
飲食店か何かの店の裏だろう。ゴミ出しをしている男の後ろ姿に、見覚えがあった。
「……」
日に焼けていない白い肌が、建物の隙間から差し込んだひかりを反射した。眩しそうに額に手をかざして、顔を上げる。
息を呑んだ。
「……春川」
オレの呟きが聞こえたのか、彼はこちらを向いた。そして、目を見開いた。
「……は、」
薄く開いたくちびるから、彼がどんな言葉を紡いだのかわからなかった。その言葉が聞きたくて、彼にもっと近づきたくて、抱き締めたくて、一歩踏み出した。
それに気づいた途端、固まっていた彼の足が動きだした。
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