春の温度

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 余裕がないまま服を脱ぎ捨てた。焦った手つきで彼の着ているスウェットにも手をかける。ふたりでベッドに沈み込めば、春川が小さく笑った。  オレは春川の顔の横に手をつく形で見下ろした。 「は、るかわ」  鎖骨、それから肩甲骨とオレよりも細い骨を撫でる。傷を隠すように手の甲を当てるから、そっと外させる。  彼が好きだ。いつもきっぱりと言い切るようで実は臆病な彼が好きだった。オレの言葉に呆れた顔をして、それからふっと僅かに笑う彼が好きだ。  そっと口づける。くちびるが優しくふれあったかと思えばぐいと引き寄せられる。 「……っふ、んッ、」  息を吸おうとしたその隙間から舌を滑り込ませた。歯列をなぞり、上顎を舌の先で刺激し、口内を蹂躙する。口を離すと唾液が細く糸をひいた。 「葉月」  名前を呼ばれて、オレは頬の傷を指でゆっくりとなぞった。 「呼べよ」  春川はまっすぐにオレを見つめていた。 「俺の名前、ちゃんと呼んで」  見下ろした視線の先で、僅かに笑う。 「深波」  首元に顔をよせた。首すじをぺろりと舐めるとやめろと言われてしまう。ならばと胸に舌を這わせた。 「……ふ」 「なんか、変な感じだから、いい」 もっと強くていいから、と懇願するように言われるが、もどかしい刺激に耐えている姿も好きで、わざと強い刺激は与えないようにした。 「おい、おまえ、ッぁ」 「ごめん、歯が当たった」  一度顔を上げて謝れば顔を背ける。まだ余裕がありそうだ。 「おい、こっちかよ」  足を広げさせると暴れるようなそぶりを見せるから足首をつかんだ。バックでやると思っていたのか、かぁっと彼の顔が赤く染まる。 「いいだろ、今さら恥ずかしがるなよ」 「今さらって、んッ」 探るようにふちにローションを纏わせた指を這わせて、つぷりと突き入れる。 「……ふ、」  彼が小さくに首を反らせた。思ったよりも余裕があるかもしれない。安心させるために、僅かに反応をみせる彼のそれに手を伸ばした。 「大丈夫、さっき準備、したから」  こくこくとオレは頷いて、二本目の指を入れる。ぐにぐにと内壁をこするように動かすと僅かに水音がした。 「……なあ、あのあと」 「ほかの奴とはやってねえよ」  切羽詰まっているのか、いくらか早口で春川は言う。 「んっ……く、ぅんッ」 「……くッ」 「はづき、はやく」  オレの余裕もなくなっていた。その言葉にたまらなくなって、性器を押し当てる。まるではやく入れてほしいと言わんばかりに、ひくひくと反応するのがわかった。そのまま、腰を押し進める。腕が伸びてきて、手のひらを合わせるようにしてそのまま絡めた。 「苦しくない?」 「大丈夫だ、から」  耐えるような声を聞くと乱暴に腰をふりたくなる。 「もっと、強くッ、ぅ」 ひき寄せるように、首の後ろに手を回される。まるで、深い海の底に引きこまれていくようだった。 「は、ぅ、」  とろけた表情がたまらなくて、啄むようにキスをすると彼はぎゅっと目を瞑る。 「……ん、」 「声、我慢しないでよ」 「嫌、だ」  なんでだよ、という意味も込めて腰を強く打ちつけると、一際高い声が上がった。 「可愛い」 「は? ッぁあっ、……おいっ、」  脳の奥が灼かれているようだった。他のことなんてなにも考えられない。 「ンっ、んっ、んぅ、はづき」 「うん」 「っごめん、嫌われたく、なくて」  だから逃げた、と春川が掠れた声で言った。いいよとも許さないとも言えなくて、「うん」とだけ言って奥を探るように腰を動かした。 「ぁ、だめ」  律動に合わせて春川の腰も動く。すっかり反応しきった春川の性器がそれに合わせてゆれていた。 「だめじゃ、ないだろ」 「好き、春川、なあ、すき」  下の名前を呼ぶのも忘れて、何度も春川を呼ぶ。気持ちよさそうに感じ入っている顔を見ると、たまらない気持ちになった。 「ナカ、すごい動いてる」 「う、るさいッ」  言葉にされて意識したのか、内壁はさらに収縮するように動いた。 「ずっと考えてた、春川のこと」 「うん、んっ」 「会いたかったんだ」  ずっと。とオレは必死に言う。 「……っ」  わかったから、と春川が掠れた声で言った。 「好き。春川」 「俺もッ、んっ」 「あ、バカっ」  容赦なく奥まで責め立てると浅く息を吐く。彼の小さな口からひっきりなしに小さな喘ぎが漏れた。 「あっ……」 奥をいっそう激しく突き上げると、春川が達したのがわかった。 「ごめんもうちょっと」 「ひ、ぁッ」  焦点の合わないとろけきった表情で、春川は甘い悲鳴を上げた。それと同時にオレも彼のなかで達していた。
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