35人が本棚に入れています
本棚に追加
突然で申し訳ないが、俺の趣味は映画鑑賞だ。
まっ、これだけなら「そうなんですね、すごーい」と、合コンなどで棒読みで流される趣味でしかないのだが、俺の映画鑑賞は見る場所が少しだけ変わっている。
休みの日、妻に断りを入れ愛機のiPadを持って電車に乗ると、俺はどこか適当な駅を見つけて下車し、そこの駅のベンチで映画を観賞するのだ。
この趣味を口にすると、大抵の人間は「何で、わざわざそんな面倒くさい事をするの?」と、問い掛けてくるのだが、その理由は俺にも上手く説明が出来ない。
しいていうなら、駅で繰り広げられる人間模様、見知らぬ街の空気。
独特な駅員の注意喚起、未踏の駅に降り立つ事で足跡を残したという高揚感。
これらが合わさって作り出されたモノが「隠し味」となって、見る映画の内容を一層引き立たせているのだろう。
妻も、最初は「家の事をほったらかしにして」と、よく愚痴をこぼしていたが、今では諦めてしまったらしく
「もう、大きい子供がいなくなって手間がかからなくなった、って思っておくわ」
と、渋々ながらも公認してくれた。
今日も俺は急行に乗り、1時間かけて見知らぬ駅に降り立つと、こうして映画鑑賞にいそしんでいる始末だ。
iPadに映し出されている映画は、「アントマン&ワスプ」
スコットとホープの掛け合いが絶妙であり、アメリカ映画ならでは痛快なアクションが、仕事などで溜まりきった俺のストレスを、濡れたダスターみたく取り去ってくれる。
最初のコメントを投稿しよう!