【ショート・ショート】印(しるし)

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1時間半が過ぎた。 俺はiPadの再生を一度止めると、自販機まで歩き、そこで缶コーヒーを1本購入した。 そして、再びベンチに座り映画鑑賞の続きをすると、一人の女性が俺の隣に座ってきた。 その女性の行為に、俺は少しだけ違和感を抱いた。 妙だな、と。 普通、駅のベンチに座る時、席が埋まっていない状態なら大抵は「パーソナルスペース」を確保する為に、一つ間隔を空けて座り、他人の真横に座るケースなど殆ど無いハズだ。 実際、俺と彼女が座っているベンチは、他には誰も座ってはいない。 それ故、まるでマーキングでもするかのように不自然に俺の隣に座ってきた彼女の行為は、俺から映画への集中力を幾ばくかではあるが奪っていった。 「こんにちは」 微糖の缶コーヒーを飲む事で、俺が再び映画に集中をしようとしたその時、女性が言葉をかけてきた。 「はい」 俺は仕方なくiPadの再生を止めると、顔を上げ、女性に視線をやる。 「映画を見てるんですか?」 「そうですよ」 「私も、映画好きなんですよ」 女性はにこやかな笑顔を浮かばせると、熱を帯びた口調で自分の「映画愛」を俺に対して語っていった。
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