【ショート・ショート】印(しるし)

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彼女の「映画愛」に満ちた話は、俺を満足させるに十分なモノであった。 痛快なアクション映画のみならず、「ライフ・イズ・ビューティフル」や「英国王のスピーチ」といった人間ドラマを描いた映画も好き、といった一面は俺的に好感が持てる。 何より、女優と見間違えそうな彼女の綺麗な容姿は、俺の下心を激しく惹き付けた。 「野村さんは、この近くに住んでいるんですか?」 「いえ、俺はココから急行に乗って1時間程離れた街に住んでいます」 「そうなんですね」 彼女はクスクスと笑うと 「よろしければ、今度私の家で映画を見ませんか? たまには一人じゃなく、二人で映画を見たいんです」 と、続けて言った。 「そちらがよろしければ、是非」 女性からのアプローチに俺は即座に頷くと、スマートフォンを取り出し、彼女と連絡先を交換した。 ──思わぬ出会いがあった。 帰りの電車の中、俺はiPadで映画の続きを見ながらほくそ笑む。 子育てで忙しいというのもあり、妻とはここ数年「ご無沙汰」な状態が続いており、風呂場でこっそり一人で処理をする、というのが今の俺の悲しい日常だ。 そこに、女性から「家に来てくれ」というアプローチがあったのだから、俺の下心がバルーンのように膨らみ始めたのは言うまでもなかった。
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