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「グラスに、ヒ素を塗り込んだだけですよ。
だから、缶ビールをそのまま渡さず、わざわざグラスに注いで渡したわけ。
しかし、アンタもとことんめでたい性格してるね。
これから殺される、っていうのに、バカみたいに鼻の下を伸ばしてビールをグビグビ飲んでるんだからさ」
「俺を殺したら……、お前は警察に捕まるぞ……。
LINEのやり取りとか、してんだからよ……」
「あのさ、私が5人殺してるっていうのに、何でまだ警察に捕まってないと思う?」
彼女は、せせら笑いを浮かばせた。
「殺人事件ってさ、死体が出てこなきゃ、どれだけ証拠があっても立件出来ないんだよ。
たとえ、ルミノール反応だとかDNA反応があったとしてもね。
ヒ素でこれから死んじゃうアナタは、私に足形を取られた後、お風呂場で解体される。
で、アンタは生ゴミとなって少しずつ捨てられる訳だけど……、って、もしもーし。
もしかして、もう死んだ?」
彼女の言葉通り、俺はこの時点で既に死んでいた。
彼女は宣言通り、俺(だったモノ)から靴下を脱がし、足形を粘土板に押し付けると、俺を風呂場まで引きずっていき、そこで警察に捕まらない為の「色んな処理」を俺に対して施した。
数日後、彼女は窓際で日干しさせていた粘土板を額縁に入れると、それを壁に掛ける。
そして、ズラリと並んだそのレリーフを見ながら、彼女は笑い転げた。
まるで、狂人のように。
レリーフとなったその一つには、かつて俺がこの世界で「生きていた」事を表す「足跡」が、皮肉にもくっきりと分かりやすく窪んだ状態でしるされていた。
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