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『みんな何で目ぇ閉じてるのっ? 何がいたのっ? ねーえーっ!』
えっあれ? 香菜の声。
得物で刺されたのはめかぶの方だった。
良かった――――――っ‼
画面相当気持ち悪いけど。
床に張りつけられためかぶは、ジタバタと大暴れしている。が、
男がぱかりと口を開け、まるで欠伸をするようにそれを吸い込んでいくのを、
あたし達も大口を開けて、ただただ見ていた。
「待った! 香菜、もうぶん回さなくていい」
『何だったのっ? ねぇ!』
『ごめん、泣かないで香菜、えと、クモがいたの! うん! すっごい大きなクモが』
真由美がトラミを持ち上げ言う。
『いやもちろんあんなにでっかくないよ? でもかなり大きなヤツが、その、いたように見えた』
千夏が早口で続ける。
「あぁ~でもごめん、違ったみたい。画面だと粗いじゃん? 画面、その‥‥‥スリッパだったかも」
あたしが締めくくった。
香菜が花瓶を持って振り返った時、全ては終わっていたのだ。
化け物めかぶを飲み込んだ男は口のまわりを舌でぬぐい、すばやくベッドに座、いや寝そべった!?
そしてなぜだかあたし達にウインクすると、何事も無かったかのように
え―――――――っ‼
弥七に戻った。
今のあたし達、もっと大きなめかぶでも飲み込めるんじゃないかな。
「やしちぃ‥‥‥」
あんたいつからそんな技を。いったいどうやって。
彼は今、悠然と香菜のクッションをかじっている。
そうか‼
いつもは彼が、弥七が外で番をしていたから化け物は入って来られなかったんだ。
だけど、弥七が家の中にいる時はドアをくぐれる。それで香菜達を狙って‥‥‥。
弥七は、時代劇が大好きな香菜の両親に愛され、香菜とは兄妹のように育ってきた犬だ。
たくましく成長した柴犬は、いつからこうして大切な家族を守ってきたんだろう。
かっこいい。
多少疑問は残るけどね。
トラミもきっと、何らかの方法で真由美を守っているんだろうな。
で。どうしようあたしと千夏‥‥‥。
もしもあのめかぶみたいなものが、あたし達の家に憑いたら‥‥‥
これだけハッキリ見てしまったのだ。自分の家だけは安全だって保証ある?
だからって、守ってもらいたくてペット飼い始めるのも違うしね。
結局、あたしと千夏は考えて‥‥‥
そして考えないことにした。
弟も言ってた。物の怪って考えると来ちゃうって。
だからやめた。悩むこと。
あれからけっこう月日が経った。
あたし達四人は皆元気。
何度パソコンで集っても、やがて弥七やトラミが旅立っても、
不思議ともうめかぶは現れなかった。
あたしはふいに思い出した。
昔、留守番が怖くなった時、確か玄関には小さな水槽があって。
水槽にはたった一匹、弟が縁日で掬い、アカと名付けた金魚がいて。
家の中が怖くてうろうろするあたしを、
今思えばアカは、
水の中でほとんど動かず、ずっと見ていてくれたような。
小さい頃、留守番が怖くて、ペットのいる友達を羨ましいと思ってた。
さわれる犬や猫はいなくても、あたしは一人じゃなかったんだ。
今でも相変わらず怖がりのあたしに、弟が言った。
「何かをずっと大事にしていれば、付喪神ってのが来てくれるかもよ」
弟よ。ナイスアドバイス!
これであたしは一人じゃない!
大切に使っているものなら部屋にいくらでもあふれてる。
今から両親が旅行に出かけようが弟が大学の寮に入ろうが、あたしは常に大家族‼
鼻歌交じりにテレビをつける。
〇□△××?!?!??――――――っ ‼
リモコンが利かない単三が無い‥‥‥。
その日の午後、懐かしの三人にLINEした。
「頼む! 誰か泊りに来て」
(了)
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