ひとりじゃないから

3/3
前へ
/3ページ
次へ
 『みんな何で目ぇ閉じてるのっ? 何がいたのっ? ねーえーっ!』 えっあれ? 香菜の声。 得物で刺されたのはの方だった。 良かった――――――っ‼ 画面相当気持ち悪いけど。 床に張りつけられためかぶは、ジタバタと大暴れしている。が、 男がぱかりと口を開け、まるで欠伸(あくび)をするようにを吸い込んでいくのを、 あたし達も大口を開けて、ただただ見ていた。 「待った! 香菜、もうぶん回さなくていい」 『何だったのっ? ねぇ!』 『ごめん、泣かないで香菜、えと、クモがいたの! うん! すっごい大きなクモが』 真由美がトラミを持ち上げ言う。 『いやもちろんあんなにでっかくないよ? でもかなり大きなヤツが、その、いたように見えた』 千夏が早口で続ける。 「あぁ~でもごめん、違ったみたい。画面だと粗いじゃん? 画面、その‥‥‥スリッパだったかも」 あたしが締めくくった。 香菜が花瓶を持って振り返った時、全ては終わっていたのだ。 化け物めかぶを飲み込んだ男は口のまわりを舌でぬぐい、すばやくベッドに座、いや寝そべった!? そしてなぜだかあたし達にウインクすると、何事も無かったかのように え―――――――っ‼ 。 今のあたし達、もっと大きなめかぶでも飲み込めるんじゃないかな。 「やしちぃ‥‥‥」 あんたいつからそんな技を。いったいどうやって。 は今、悠然と香菜のクッションをかじっている。 そうか‼ いつもは彼が、弥七が外で番をしていたから化け物(あいつ)は入って来られなかったんだ。 だけど、弥七が家の中にいる時はドアをくぐれる。それで香菜達を狙って‥‥‥。 弥七は、時代劇が大好きな香菜の両親に愛され、香菜とは兄妹のように育ってきた犬だ。 たくましく成長した柴犬は、いつからこうして大切な家族を守ってきたんだろう。 かっこいい。 多少疑問は残るけどね。 トラミもきっと、何らかの方法で真由美を守っているんだろうな。 で。どうしようあたしと千夏‥‥‥。 もしもあのめかぶみたいなものが、あたし達の家に憑いたら‥‥‥ これだけハッキリ見てしまったのだ。自分の家だけは安全だって保証ある?  だからって、守ってもらいたくてペット飼い始めるのも違うしね。 結局、あたしと千夏は考えて‥‥‥ そして。 弟も言ってた。物の怪って考えると来ちゃうって。 だからやめた。悩むこと。 あれからけっこう月日が経った。 あたし達四人は皆元気。 何度パソコンで集っても、やがて弥七やトラミが旅立っても、 不思議ともうめかぶは現れなかった。 あたしはふいに思い出した。 昔、留守番が怖くなった時、確か玄関には小さな水槽があって。 水槽にはたった一匹、弟が縁日で(すく)い、アカと名付けた金魚がいて。 家の中が怖くてうろうろするあたしを、 今思えばアカは、 水の中でほとんど動かず、ずっと見ていてくれたような。 小さい頃、留守番が怖くて、ペットのいる友達を羨ましいと思ってた。 さわれる犬や猫はいなくても、あたしは一人じゃなかったんだ。 今でも相変わらず怖がりのあたしに、弟が言った。 「何かをずっと大事にしていれば、付喪神(つくもがみ)ってのが来てくれるかもよ」 弟よ。ナイスアドバイス! これであたしは一人じゃない! 大切に使っているものなら部屋にいくらでもあふれてる。 今から両親が旅行に出かけようが(あんた)が大学の寮に入ろうが、あたしは常に大家族‼ 鼻歌交じりにテレビをつける。 〇□△××?!?!??――――――っ ‼ リモコンが利かない単三が無い‥‥‥。 その日の午後、懐かしの三人にLINEした。 「頼む! 誰か泊りに来て」             (了)
/3ページ

最初のコメントを投稿しよう!

11人が本棚に入れています
本棚に追加