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言われた通り登録を終えた私は、無色透明だったカードを眺めていた。機械に差し込んで住所氏名、登録理由等を登録すると私の基本情報が刻まれ、車の運転免許のようになっていた。技術ってすごい。
「ふーん、大寺淳さんね」
突然降ってきた声に私はヒッと体を縮こまらせた。振り返ると無造作に伸びたパーマを指に巻き付けた、クリッとした大きな目がかわいらしい小柄な女性が立っていた。
「そんな怯えた顔しないで、取って食わないわよ」
サイズ的には私の方が食われちゃう、とにやっと笑って私のICカードをするっと抜き取りテーブルの向かい側に着席する。
「それでは淳さん、初めまして。ここの代表で担当させてもらう早乙女ゆりです。よろしくね」
「あ、よ、よろしくお願いします」
初対面の客にため口はどうなのか、急に後ろからくるな、この人で大丈夫なのか等突っ込みどころを残したまま、話はどんどん進む。
「ここは何で知ったの?」
「と、友達に教えてもらって」
「なんていう人?」
「和央サツミって言います」
「あぁ!あの人!よかったよね、相手が見つかって。で、淳さんもそんな彼女から私の噂を聞いてきたわけね」
別にあなたの噂は聞いていない。
「それで?サツミさんはなんて言ってた?」
「所長」
ゆりの言葉を遮るように、扉をノックして先程の受付嬢が顔を覗かせる。
「どうしたの望?」
「アイパットお忘れです」
「あ、サンキュ。取りにいかないとって思ってたの」
「所長、大寺さんがよろしいのなら同席させて頂いてもよろしいでしょうか?」
「淳さんがいいならね」
望は改めてにこやかな顔をこちらに向けた。
「申し遅れました。ここで見習いをしています喜多望といいます。同席させて頂くことはできますか?」
ゆりとは対照的に後ろにまとめられた髪、丁寧な物腰。むしろこっちの人に担当してほしい。
「ぜひお願いします」
「ま、私の手腕をとくと見ることね」
「そうですね、よろしくお願いします」
得意そうに胸をそらすゆりを受け流して望はその隣に着席した。本当にここ大丈夫だろうか。まあ、登録だけでやめてしまってもいいし。
「今回のご希望は、ご結婚でお間違いないですか?」
望は手早く机に置かれた私のカードをアイパットにスキャンすると笑顔で切り出した。その横でゆりが、私がいうはずだったのに!と頬を膨らませている。
「はい。結婚したいんですが相手もいないし、ちょっと男性が怖くて」
「男性が怖い、ですか。立ち入ったことをお聞きしますが心当たりはありますか?」
「ありません」
少しかぶせ気味に言ってしまった。不自然じゃなかったかな。
「わかりました。でしたら穏やかな方がいいですね」
「はい、ぜひ」
特に突っ込まれなかった。良かった。
「登録情報の他に、どんな方とお付き合いしたい等ご希望ありますか?」
私は一瞬言葉に詰まったが
「いいえ、特には」
「ふーん、容姿も年収も趣味もこれといって希望ないのね?」
黙っていたゆりがアイパットを覗き、横目で私を見る。
「ただ最悪子供ができなくてもいい人、と」
まるで責められているような気がしたけれど負けていられない。せめての抵抗と背筋を伸ばす。
「そうです。子供は授かりものだと思うので、できなかったら治療とかはせず二人で過ごせるような人がいいなって」
「なるほどね。今まで付き合ったことは?期間は?」
「あります。皆三カ月ともたなかったですが」
「そう。別れた人とはどんな経緯で?」
「…つきあって近しくなるとなんか怖くなって。これでいいのかなって」
「ふーん。それだけ?」
「え?」
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