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とある日々
ここでちょっと学生時代の頃の話をしたいと思う。敷かれたレールの上を歩くのを拒否していた頃だ。俺は週に3日は学校をサボり映画館に入り浸っていた。もちろん休日、日曜日も。映画三昧の学生時代と言っていいくらいだ。あの頃は一日三本観れれば夜になっていた。朝イチで一本目を観て、次の劇場に急ぎ二本目、そしてまた次の劇場へ急ぎ三本目。それ以上は閉まってしまう。運よく四本観れるのは同時上映があった場合だった。スクリーンからロードショーからキネマ旬報等々手当たり次第に先々の映画の情報を頭に叩き込んで何年後の映画までも研究した。徹底的な映画おたくだ。
学校では成績は下の下。読書は好きだが国語は嫌い。そもそも勉強が嫌いで宿題は一度もやったことはない。クラスメートと馬鹿やって好きな女を見て、小説書いてクラスメートが読んで。そんな日常だった。
どの高校にいくか、そんな話が出てきた頃、俺はいかないと即答した。
何かの映画の影響なのは間違いないと思う。両親はそんな俺に高校にいくように説得した。だが俺は最後まで拒否した。最終的に高校受験はして落ちたら好きにするという事に決まった。
勉強すると部屋に籠るが小説を書いた。どんどん小説を書いをていく。受験日前も映画を観に行って小説を書いた。
一度も勉強はしなかった。
そして俺は見事に落ちた。
何の感情もなかった。落ちて当然だ。三年間一度も勉強をしなかったのだから。
これが俺の学生の頃の話。
多少勉強してれば社会でも頑張れるだろうが知識はすべて趣味から得たものだ。ろくでなしの20歳。
休日、俺は七日町でぶらぶらしていた。あの頃のような映画熱は消え去り何もなくなっていた。もちろん理由はある。知りたい?映画館がシネコン化したからだ。七日町の映画館は今はもうない。シネコン嫌いの俺は映画館嫌いになった。古き善き映画館は日本から消えつつあるのだ。
二十歳の俺には二歳年上の恋人がいた。看護師をしている美人だ。由季恵とはいつもホテルで過ごした。若い男の性欲は果てを知らず何回戦でも出来た。
会うのは大抵夜か祝日、日曜日だった。
平日の昼間は休みになると時間をもて余す。で、七日町でぶらぶらしている。
「お兄さん、暇?」
可愛い女性から声をかけられた。
突然の事で慌てる。宗教の勧誘?新聞の勧誘?違った。年齢は二十歳。同じで珠乃という名前の可愛い女性だ。珠乃と俺はお互い暇潰しにホテルに行った。
珠乃は服を脱ぎ、俺も服を脱ぐ。裸の男女。髪の長い珠乃の髪に触れ抱き寄せる。首筋にキス。一回戦の始まりだ。
ベッドに裸で珠乃と寄り添う。
「ほんとは恋人いるんでしょ?」
珠乃は言った。
「ほんとは恋人いるんでしょ?」
俺は言った。
「私はいないよ、省吾は?」
「いない」
俺は嘘をつく。
ベッドで珠乃は俺の乳首にキスをする。俺は珠乃の髪を撫でながら幸福を感じる。
「省吾の恋人になれるかな 」
珠乃は言った。甘いとろけるような声で。
「ダメ」
俺は珠乃に言った。残念だが会ったばかりの二人が恋に落ちる物語ではない。
珠乃はめざとく小さな手術痕を見つけた。脇腹のところにすーと線をひいたようなメスで切った痕。
「なんの手術?」
看護師というのは嘘ではないらしい。
「気にするな」
俺は言った。どんどん性欲が消えていく。ストレッチャーに乗って天井を見てた事が浮かぶ。
「俺は落伍者だから、他に探した方がいいよ」
俺は言った。
大手術を経験して俺はボクシングの真似事をしてみた。障害者をばかにするやつを殴るため。ジムには金古さんというおっさんがいた。金古さんは俺にボクシングを教えた。手術を終えて退院したあとだ。
「省吾は障害者なの?」
「障害者お断りだったか?」
誘ったのは珠乃だ。俺は起き上がり着替えた。
珠乃を無視してそのまま準備してホテルを出た。
タクシーを拾って七日町に向かう。
「差別が色濃いね、山形も」
俺は誰ともなしに言った。
七日町で俺は降りた。
傷を撫でる。あの手術の傷。成瀬さん、200%成功しました。と言った医師。
ベンチに腰をおろす。
クレアチニンが···もうダメな数値ですね。
医師の言葉が頭の中で成瀬聴こえる。
「お、こいつ成瀬省吾じゃないか?」
誰だ?俺は気持ち悪くて顔をあげれない。
「成瀬省吾、中卒を隠してバレないと思ったか?クビだよ成瀬」
知った声だ。
腹の下からせりあがってくる、俺は吐いた。
「きたねーな成瀬」
声の主を確認する。目だけキラッと見る。同僚と俺の上司。
「クビなんですね?」
俺は確認した。どうやら本当にクビらしい。俺は素早く同僚の前に移動して重い拳を腹にいれた。すぐ移動して上司の顎に一発入れる。
「日本なんか潰れちまえ」
俺はそう言って立ち去った。
実は病院にも定期的に通ってる。青い障害者手帳をいつも持ち歩いて。術後の経過をずっとみてもらってる。
由季恵はそこの看護師だ。
ずっとおかしいと思ってたんだがホテルでセックスしかしてない。
遊ばれてないか?
「私とやれていいでしょ?最高じゃん」
由季恵は赤い車で迎えにきた男の助手席に乗って消えた。
あぁ、そうかよ。
いいぜ。
由季恵とは会わなくなった。
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