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本編・第八節 旅路の果て
震える手で握っていた筆が、転がり落ちた。
何とか拾おうとするも、どうしても拾えない。
ああ……もう、良いか……。書くべきことは、書ききったと思う……。
ドサッ
ここは……どこなんだろう。わたしは、何をしていたんだっけ……。そう、ウォルデンに……ウォルデンに行かなくちゃいけない。でも、全然たどり着けなくて……道を間違えたのかな……。そもそも、どうしてウォルデンに行かないといけないんだろう……。
――ううん、そんなこと、どうでもいい。
何か食べたい。何か食べたい。何か食べたい。何か食べたい何か食べたい何か食べたい何か食べたい何か食べたい何か食べたい何か食べたい何か食べたい何か食べたい何か食べたい何か食べたい何か食べたい何か食べたい何か食べたい何か食べたい何か食べたい何か食べたい何か食べたい何か食べたい何か食べたい何か食べたい――。
気が付くと、両手で掴めるほどの、何の変哲もない石が目の前に転がっていた。それを確認したとき――無意識に口が動いていた。
「……師は云われた。石をパンに変えるのは容易いと――」
そこには、両手で掴めるほどの、出来立てのパンが転がっていた。
「……」
パンを手に取る。
「ぁ……」
口を大きく開ける。
「……」
そうだ。そのまま齧り付けば良いのだ。
「ぁ………ぁああああっ!」
わたしは、パンを投げ捨てていた。
――わたしは、聖女として生きてきたんだ。なら……最後まで聖女として生きたかった。それを、人は笑うだろうか?
「……」
もう身体が動かせない。
死ぬ。死ぬんだ……。
今、わたしができること。
民に祈りを捧げよう。彼らが、健やかであれるように……。
――――
その民はと言えば……彼らは病に苦しんでいた。
病により隣人から虐げられ、他人と自由に交流することができず、日々の稼ぎを得ることも叶わず、自殺する者さえいた。これらは、虚構の病に端を発する。もう一つ、忘れてはならないのは、聖水による病である。聖水を飲んだ者は、全員ではないものの、幾人かに一人は、流行り病とは異なる症状を起こしていた。聖水を飲むことは、本当に必要なことなのか? 病とは何なのか? 声を上げられる者は、もういない。国民番号の名の下、国家にあだなす行為ができないよう、行動が監視されているのだから。
彼らはいずれ、国に対して首を縦に振るだけの奴隷に成り下がることだろう。そのための道筋は、既に支配者によって整然と整えられていた。一面的な情報だけを盲信し、考えることをやめた民。その末路は、決して善いものとは言えないだろう……。
さて、元聖女は死んだ。新聖女は堕落した。支配者は勝利した。
物語は、これで終わったのだ。
――そして、ここからは蛇足の物語となる。
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