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被疑者が亡くなったことで収まるかと思われたストーカー被害は、予想を裏切るように、尚も菜子を悩ませ続けた。
被害の状況は一切変わらない。むしろエスカレートしている。部屋のものが勝手に動いていたり、常に部屋の中に誰かがいて、見つめられている気配もした。
ドアがひとりでに開くことも、時折、男の声がすることも。すべての現象は菜子の心を打ち砕き、ついにはアイドル活動を休業せざるをえなくなった。
証拠もないため、警察はもう動いてはくれない。すがる思いで菜子は、インターネットで見つけた霊媒師に相談した。
「ちょっと部屋を見させてもらうね」
「はい」
訪れた霊媒師の女性は、念珠を手に、部屋に漂う気配を感じ取りはじめた。
「うんうん。残念ながら、いるわ。男性の霊が。愛おしそうにあなたのことをずっと見つめてる」
「やっぱり……」
「除霊しようか?」
客席がガラガラのライブでも、いつも応援してくれていた男のことを思い浮かべ、胸が痛んだ。アイドルはファンあってのもの。ファンは何より大切にしなきゃダメだ。でも……。
「お願いします」
菜子は祈るように手を合わせた。
同情したように霊媒師は言う。
「お化けになられちゃ、足あとは残らないもんねぇ」
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