ストーカー

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「え? 足あと?!」  ストーカーはやはり菜子の玄関の前まで足を運んでいる。その証拠に、玄関の前にうっすらと足あとが残っていた。  スポーツシューズの足あと。菜子が履くタイプの靴じゃない。足あとのサイズからして男のものだ。  菜子は他の人気アイドルグループ同様、恋愛禁止を課せられていた。幼い頃からの夢だったアイドルになれた誇らしさから、そのルールを忠実に守っていた。だから、異性がこのマンションを訪れることなんて絶対にない。  足あとを追うようにエレベーターホールへ。そこにもかすかに足あとが。ポストの前やゴミ置き場にも足あとは残されていた。  そういえば昨日は雨だった。犯人の靴底には濡れた泥が不着していたはず。だからこうして足あとが残ってるんだ。証拠の足あとをまじまじと見つめていると、犯人がすぐそばにいる気がして胸が苦しくなった。 「もしかして……」  慌てて玄関前まで戻り、恐る恐るドアノブに手を伸ばした。目をつむり、ドアを開ける。足元に視線を落とした菜子は思わず悲鳴をあげた。  嫌な予感は的中。菜子の靴が並ぶ三和土(たたき)にも、その足あとはあった。やはり犯人は部屋の中まで入っていたことになる。菜子は絶望し、その場に立ち尽くした。 「なるほど、わかりました。もう少し警備を強化しますので」  足あとという証拠を提示したことで、警察はようやく本気になってくれたようだ。マンションの外はもちろんのこと、玄関前も定期的に巡回してくれるようになった。  それから数週間が経ったある日。 「え? 自殺?」  足あとの証拠をはじめ、周囲の聞き込みなどから、警察は被疑者を特定。現行犯で取り押さえる機会を伺っていたところ、犯人が自らの命を絶ったことが判明したという。 「被疑者はこの男です」 「うそ……」  菜子は言葉を失った。  そこには、デビュー前の下積み時代から応援してくれていた、熱狂的なファンの男が映っていた。  ライブ会場では常に最前列。その姿を見ない日はなかった。地方のライブにも足を運んでくれるほど、グループのことを応援してくれていた。特に菜子のことを。  応援してくれるのはありがたいことだ。でも、気持ちが行き過ぎてしまい、結果的にストーカー行為に走ってしまうようなら、それはファンとしてルール違反だ。複雑な心境になり、菜子はただ黙るしかなかった。 「とりあえず、ストーカーの被害は収まるでしょう。あと数日間、警備は続けますので、何もなければ警備は解除します」  黙ったまま、菜子は小さく頷いた。
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