26人が本棚に入れています
本棚に追加
第十話 先生
午後の授業中、さっきの和也との出来事を考えていた。和也の言葉に勇気をもらい、自分のことを気持ち悪いと思わない人がこんなにも近くにいたことを知った。和也が自分のことをどこまで理解してくれたかなんてわからない。だけど、今はただ、本音を話しても離れないでいてくれる。そのことが何よりも嬉しかった。
「高原、お前はこの後残って進路指導室に来るように」
気がつくと授業は全て終わっていて担任の山田に呼び出されていた。
「はい、わかりました」
僕はそう言って和也に坂本先輩が来たら言っておいてと伝えて進路指導室に行った。そこにはもう担任の山田がいてなぜかカーテンは全て締め切ってあった。
「扉を閉めてこっちに来なさい」
言われた通りにする。
「なぁ、高原。お前、先生が前から好きだったと言ったら驚くか?」
この男は担任のくせに何を言ってるんだろうと思った。
「そうだよな、驚くよな。でも先生、本気なんだ、お前のこと」
担任の山田はそう言うと近寄ってきた。僕は逃げようとしたが手を掴まれてしまった。
「…やめろ、僕に触るな」
僕は女言葉を使うのも忘れてそう言ってしまった。担任の山田は嫌がって離れようとする僕を力ずくで引き寄せ、唇を合わせてきた。
その時僕は自分が嫌がったところでどうする事も出来ない力の差を感じていた。どれだけ体を鍛えても所詮体は女だから男の力には勝てない。今までも所々で気づいていたんだ。男に混じってサッカーや野球をしても結局気づけば仲間から外されていた。やっぱり、自分がどれだけ強くなろうとして努力をしてもどうにもならない。そう、心のどこかでわかっていた。
…だけど、僕は強くなりたかったんだ。
担任の山田は離れても手は離してくれなかった。
「…僕は、僕は、男なんか好きじゃない。僕は女なんかじゃないんだ」
思わず口から出てしまっていた。
「何を気持ちの悪いことを言ってるんだ」
後悔したときには担任の山田はそう言って進路指導室を出て行ってしまっていた。
少ししてから何事もなかったようにして坂本先輩と一緒に帰った。帰り道に何度か何かあったのかと聞かれたが僕は話さずに笑って誤魔化した。
ー続くー
最初のコメントを投稿しよう!