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第十一話 嫌がらせ
次の日、担任の山田の僕に対する態度は激変していた。他のみんなには優しい担任の山田は僕と話すときだけまるで嫌がらせをするように態度を変えてきた。
日にちがたつにつれて担任の山田を好きな連中が僕に嫌がらせをするようになった。
「高原ぁ、お前気持ち悪いんだから学校来るなよ」
「そうだよ、同じ空気を吸ってたらこっちまで菌が移りそうだわ」
そんな言葉を聞くことが最近の日課になった。それでも和也は僕の味方をしてくれていた。
「うるせえな、秋に菌なんかあるわけ無いだろ。お前ら、頭沸いてんじゃねえか」
「うわぁ、天下の和也様がお怒りになったぁ」
和也の言葉に馬鹿にするかのようにそう言った。
「空風くん、かばうのやめなよ。ほっとけば良いって」
僕が止めに入る前にクラスの女が和也に近寄りそういった。
「うるせえな。俺はこいつが俺のダチだから言ってんだ。ダチをかばって何が悪い」
「もう、知らないんだから」
女はそう言うと和也の側から離れた。
「和也、僕は大丈夫だから。こんなの慣れっこで、気にしてないし」
僕は他の人にはきこえないぐらいの声でそう言った。
「わかったよ。お前がそう言うなら少し我慢しといてやる」
和也はそう言うと周りにいた人達全員に睨みつけてから席に座った。
それからも嫌がらせは続き、担任の山田は僕を呼びつけては服に隠れてみえないところに殴り傷をつけていった。だけどこんなことを和也に話せば何をしてしまうかわからない。だから、誰にも話さずに耐えて、和也や坂本先輩の前では笑顔を作ることしか出来なかった。
「高原、今日もお前は居残りだからな」
担任の山田はいつものようにそう言うと進路指導室に呼び出した。
行かなければいい話なのだけれど、あの日、担任の山田に言ってしまったことを思い出すと行かないわけにもいかなかった。
進路指導室に着くといつもの日課が始まった。
「お前は気持ち悪いんだよ」
担任の山田はそう言って僕を気が済むまで殴り続ける。気が済むと僕をそこに置き去りにしたままその場を去って行った。
僕はまた、何事もなかったかのように坂本先輩と一緒に帰る。だけどその日の帰り道は、誤魔化すには辛いほどに笑顔を見せることが出来なかった。
「少し休もうか」
そんな僕の様子に気づいた坂本先輩がそう言ってくれた。寄り道をした公園のベンチに座る。
「あっちゃん、何があったのかは俺はわからないし、あっちゃんが話したくないことなら話さなくて良いよ」
坂本先輩は下を向く僕に優しく話しかけてくれた。
「でも、これだけは聞いて。大丈夫。あっちゃんに何かあったら俺があっちゃんを守るよ。いつでも俺は胸を貸すから辛いことがあったなら俺の胸に飛び込んで俺の中で泣けばいい」
そう言って僕に両腕を拡げる坂本先輩の胸に飛び込むことは出来なかった。
坂本先輩と付き合っていても、自分の中での心と体の違和感が隠しきれないほどに大きくなっていた。和也や担任の山田に自分のことを言ってしまってから今まで隠そうとしていた物が少しずつ表に出てきてしまっていたのを自分でも気づいていた。
だから、こんな中途半端な気持ちのまま坂本先輩に甘えることが出来るはずもなかった。
「…大丈夫です」
僕はそう言ってどれだけ辛くても一人で抱え込むしかなかった。
「そっか、わかった。でも、辛かったらいつでも言ってな。俺はあっちゃんに呼ばれればどこにいても飛んでいくから」
坂本先輩はそう言って僕の頭を優しく撫でてくれた。
坂本先輩が僕に向けるそんな優しさが今の僕には辛かった。僕の問題に坂本先輩を巻き込んでいつか傷つけようとしている。そんな事わかっているけど、僕は坂本先輩を傷つけたくない。傷つくのは僕一人で充分なんだ。だからまるで、普通の女の子のように振る舞って坂本先輩を好きなふりをしている。だけど、二人でいても一人でいるのと変わらない感覚になってしまう。
これは自分で選んだ道。告白されて付き合ったときから僕はこうなることがわかっていたのかもしれない。だけど、今言えることは坂本先輩の優しさに触れる度に付き合ってしまったことを後悔している。傷つけて良い人じゃないっていうこと。
だから今は、普通を演じて坂本先輩と付き合っていく道しか残されていない。
「ありがとうございます」
僕は無理して笑顔を見せる。
「あっちゃんは、笑顔が一番似合うよ。さ、そろそろ帰ろうか」
坂本先輩はそう言うと立ち上がり僕に手をさしのべた。
「はい」
僕はその手を握ることなく立ち上がる。ただ何となく手を握り返すことが出来なかった。
ー続くー
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