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第二話 友達
空風が近寄ってきて、何かを言っているのに気づく。僕はそれを無視していたが、しつこく話しかけてくるから片方のイヤホンを外した。
「何か用?」
僕は声色を少し高くしそう言って空風を睨む。
「何か用じゃねぇよ。さっきからなんなんだよ、その態度。もうちょい愛想良く出来ねぇの」
「無理だね。私はあんたみたいな奴が嫌いだし」
学校や家ではなるべく女言葉で話していた。そしてその僕の言葉をきいて空風はいらついたのか、自分の頭を強く両手で掻いた。
「ああ、もう。マジむかつくわ。俺もお前みたいな女は嫌いだ。でもな、このままお前と仲が悪いままなんて嫌だから、とりあえずはお前のその態度を許してやる。席も近いことだしな」
空風はそう言うと怖い顔のまま仲直りの握手を求めてきた。
「いや、全然許してないじゃん」
僕はそんな空風の態度を見てなんだか可笑しくて笑ってしまった。そしてそれを見た空風は怒るかと思ったら笑っていた。
「何笑ってるんだよ」
「いや、そう言うあんただって」
そう言って二人で笑い合った。そんな二人の光景を見ていた他の人達が僕が笑っているのを珍しそうな顔をしてみていた。
「そういや高原、お前、下の名前はなんて言うんだ?」
今まで下の名前なんか聞かれたことがなかったから少し驚いていた。
「…秋だよ。あんたは確か和也だったよね」
「ああ、そうだ。じゃあ、これからお前は俺のダチ第一号な。だから、俺はお前のことを秋って呼んでやるから、秋は俺の事を和也って呼べよ」
なぜか上から目線で言ってきた。
「なんでそんな偉そうなんだよ」
僕は笑ってしまった。
「え、なんで偉そうかって。それは、俺が偉いからだよ」
和也はそう言うと笑ってみせた。そんな和也を僕は笑ってしまった。
「嘘だよ。ただ、そう言った方が笑ってくれるかなって」
「そうなんだ」
僕達は笑っていた。そうするとクラスの女子の一人が僕の席にきた。
「高原さん、笑うと可愛いんだね。もっと笑った方が良いのに。空風くんも高原さんと仲良くなるなんて凄い」
「いや、俺はただ、秋があんな態度をとってきたから文句を言っただけだし」
和也は照れくさそうにそう言った。
「あ、私、静波美香って言うの。美香って呼んでね。私も空風くんのことを和くんって呼んでも良いかな?」
「…良いけど」
また和也は照れくさそうに小さくそう言った。
それから他の人達も話しかけてきてくれた。僕はなるべく愛想笑いをしていた。
そして放課後、和也と一緒に家に帰った。家に帰っても母親はいなくて、仕事から帰ってくるまでに夕飯を作っておくのが毎日の日課になっていた。
ー続くー
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