第三十一話 一人の男性としての告白

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第三十一話 一人の男性としての告白

そして数日がたち幸さんとの約束の日。 「秋ちゃん待った?」 駅の改札口前で待っていると浴衣を着た幸さんが笑顔でやってきた。 「全然待ってないです」 僕は浴衣姿の幸さんに見惚れつつもそう答えた。 「良かった。浴衣着るの、またてこずっちゃって。あれ、今日は秋ちゃん、甚平なんだね。それ、どこかでみたような」 幸さんはそう言うと少し黙って考え出した。 「あ、そうだ。それ、和也のだね。でもどうして秋ちゃんが着てるの?」 「まあ、なんというかイメチェンです。似合いませんか?」 僕はいつもの声より少し低くしてそう話した。 「そうなんだ。ちょっと驚いたけど似合ってるよ。なんか、かっこいいね。こんな事言ったら怒られちゃうかもだけど」 「いえ、嬉しいです」 幸さんからの思いもかけない言葉に僕は嬉しいような恥ずかしいような感じになった。 「さ、行きましょ」 「そうだね」 本当は手を繫ぎたかったが我慢して一緒に並んで歩き出した。 「そういえばこの間拓ちゃんが変なことを言ってごめんね」 「全然大丈夫ですよ」 僕はそう言って笑ってみせた。あながち間違っていないと思っていた。口説くつもりはないが、拓郎さんからみれば僕が想いを伝える行為はそれそのものだと思った。だけどここまで来て逃げたりしない。今の関係が壊れてしまっても幸さんに僕を一人の男だと意識して欲しい。 「良かった。拓ちゃん秋ちゃんのこと嫌いなのかな。なんか秋ちゃんに冷たいよね」 幸さんは心配そうにそう言うと僕の顔をみた。 「何ででしょうね」 僕はそう言うと少し苦笑した。そして花火大会が始まり楽しそうにみている幸さんの横顔を花火そっちのけで僕は見ていた。この前の花火大会の時は拓郎さんもいたから隣で横顔をみることも浴衣姿の幸さんをまじまじと見ることも出来なかった。 「秋ちゃん、花火ちゃんとみてなかったでしょ。秋ちゃんが私のことをずっとみてたこと知ってるんだからね。せっかくの花火だったのにもったいないな。それに、私のことなんかずっとみてたって何にもなんないよ」 花火大会が終わり、幸さんの家の前に着いたときに幸さんがそう言った。 「すみません。けど、あの。幸さんの浴衣姿とか、楽しそうに花火をみる幸さんの姿が花火をみるより自分にとって楽しかったから。それに、今日の幸さんは凄く可愛かったし」 僕は照れながらそう言った。 「そんな事拓ちゃんが聞いたらまた悪い勘違いしちゃうよ。でも、私は素直に嬉しいかな。同姓からそう言ってもらえる事ってなかなかないもん。ありがとう。今日は秋ちゃんも男物の甚平を着ていたからいつもと違う感じでちょっとドキドキしちゃった」 幸さんは僕の顔をみてそう言うと少し頬を赤く染めた。僕はそんな幸さんをみて想いを告げるのは今しかないと思った。 「今日、幸さんを誘ったのは二人で花火をみたかったからじゃないんです。花火は口実です。幸さんに伝えたいことがあってそれを伝えるために誘ったんです」 僕は覚悟を決めて話した。すると幸さんは不思議そうな顔で僕を見てきた。 「きっとこれを話してしまったら幸さんは僕を軽蔑すると思います。それでも僕は自分の気持ちを伝えたい。幸さん、好きです。一目会ったときからずっと。冗談とかそう言うんじゃなくて、本気で一人の男として貴女が大好きなんです」 「…え、ちょっと待って。秋ちゃんって女の子だよね」 幸さんは混乱した様子でそう聞いてきた。 「性別は女です。だけど心は男なんです。拓郎さんがいるってことはわかってます。幸さんが僕に振り向いてくれないことも。だけど僕が一人の男なんだってわかって欲しかった」 僕は真剣な顔をして幸さんにそう伝えた。この恋が報われることはない。そんな事はわかりきっている。だけど幸さんには、自分の好きな人にはちゃんと女じゃなくて一人の男としてみて欲しかった。 「こんな時、どんなことを言葉にしたら良いのかな。頭が混乱しちゃってわからないよ。だけどね、秋ちゃん。いや、秋くんって呼んだ方が良いのかな。私は秋くんの気持ちを受け入れることは出来ない。私には拓ちゃんが居るし、拓ちゃんが大好きなの。でも、これからは秋くんのことちゃんと一人の男の子としてみていこうと思うよ。秋くんが真剣に想いを伝えてくれたってわかったから。告白、凄く驚いたけど、軽蔑なんてしてないよ。素直に嬉しい。ありがとう」 幸さんが僕を傷つけないように言葉を選んで話してくれているのがわかった。今は幸さんのそんな優しさが嬉しかった。 「答えてくれてありがとうございます。幸さんの気持ちを聞けて嬉しかったです。幸さんが嫌じゃなかったらまた話しかけても良いですか?」 「もちろん良いよ」 幸さんはそう言うと僕に笑いかけてくれた。 「おい」 「拓ちゃん」 その時拓郎さんの声がして声の方に振り向くと拓郎さんが立っていた。 「やっぱ口説いてんじゃねえかよ。人の女口説いて良い度胸してんじゃねぇか」 拓郎さんはそう言うと僕の方に歩いてきて殴りかかろうとした。 「口説いてなんかないです。僕はただ、幸さんに自分の気持ちを伝えたかっただけです。それに今ちゃんと振られました。拓郎さんが大好きだって」 僕は一発殴られ尻もちをつき拓郎さんにそう言った。そしてすぐに立ち上がり笑ってみせた。 「本当かよ、どうにも嘘っぽいぜ」 「本当ですよ。幸さんは僕の気持ちには答えてはくれませんでした。だけど僕はそれでも良いんです。もともと付き合えると思って告白したわけじゃないですし。ただ、自分の気持ちを伝えたかったんです。それに、もし、幸さんが僕の気持ちに答えてくれたとしてもきっと悩ませてしまうだけだと思いますし」 僕はまた笑ってみせた。そして幸さんに今日は楽しかったです。ありがとうございましたと言ってその場を去った。 ー続くー
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