第八話 さらっと報告

1/1
前へ
/56ページ
次へ

第八話 さらっと報告

結局僕という人間は、女になろうとして坂本先輩を受け入れようとしても心が拒否をしてしまって本当に受け入れることが出来ない。だからといって、母を傷つけてまで自分を通す覚悟もない。もう、自分が何者なのかわからない。女になりきれず、男にもなりきれない。だけど、僕の体の違和感と感情だけが襲ってくる。前なんかみえない。今みえているのはどう生きていったら良いのかわからない自分だけだ。そんな事をずっと考えていた。 数日がたった日曜日のこと。和也と一緒に街に遊びに来ていた。 「秋、俺、美香と上手くいったよ」 ゲームセンターのレースものをやっていると突然和也がそう話してきた。 「そうなんだ、良かったな。てか、何で今言ったんだよ」 僕は和也にきこえるぐらいの声で答える。  「いやね、何か恥ずかしいじゃん。何かやってるときにさらっと報告するのが良いかなって思って」 「さらっと報告ね。わかった、とりあえずさらっと聞いとく」 和也の言葉に僕はそう言って笑った。 「じゃあさらっとついでで私も報告。この前、坂本先輩とキスしたった」 僕がそう言うと和也の返事はなかった。そしてゲームは終わった。 「おいおい、そう言うことは別に言わんでよくね」 和也は少し照れているのか笑ってそう言ってきた。 「いや、ただ、報告することが他になかったから」 僕はそんな和也に笑ってそう言った。 「…だからって。まあいいや。俺もその報告さらっと聞いとく」 和也がそう言って僕の顔を見てきたから笑ってみせた。そしたら和也も笑ってくれた。  やっぱり和也と一緒にいると自分が女なんだってことを忘れてしまう。同等の立場で和也は僕と接してくれているからだろうか。今はそんな和也の優しさが嬉しかった。 だけど、僕の本当の自分は知られたくない。だから、学校で話すときは坂本先輩のことを嬉しそうに話すようにして和也に男なのか女なのかわからない自分をばれないように隠していた。 怖かった。本当のことを言って和也が離れてしまうのが。今までだってそうだった。僕と仲良くしてくれた人も僕が本当のことを話すとみんな気持ち悪いと言って離れていった。もう、傷つきたくない。本当のことを話したところできっと和也は離れていってしまう。僕はもう、友達を失いたくないんだ。   だけど僕のそんな行動は無駄のように和也の様子は少しずつ変化していった。 始め、学校で話している時に悩んでいる様子を見せた。だから僕は悩みを聞こうとした。だけど、なんでもないからほっといてくれといわれてしまい相談に乗れなかった。そしてそのうち挨拶だけして何も話さなくなった。 ー続くー
/56ページ

最初のコメントを投稿しよう!

26人が本棚に入れています
本棚に追加