1人が本棚に入れています
本棚に追加
川原に戻るなりミカを振り返る。
「なあ。その家って、本当にあったんだよな?」
「だからさっきから言ってるでしょ。あったって」
「だったらさ、もう一度行ってこいよ。お前一人で」
「え?どうして?それならタケルも一緒に行こうよ」
「俺はほら、まだ荷物を車まで取りに行かなきゃなんないし。それにお前一人で行ったほうが、冷静にさっきの道を探せるだろ」
「そうかな」と不服そうな表情を浮かべつつもミカは森のほうへと歩き出す。
「あ、それからさ。その家見つけたら、どんなものでもいいからその家のものを何か持っって来いよ」
「だめでしょ。他人の家のものを勝手に持ち出しちゃ」
「家があったって証拠を持ってくるだけだ。あとでちゃんと返すから」
「それなら写真撮ればいいでしょ」
「いや、写真なんかどうだって加工できるじゃん」
「そんなことしないわよ」
「そりゃそうだけど、やっぱり信頼できるのは物的証拠だからな」
わけわかんないわと言いつつも、ミカは茂みの中へと消えていった。
これでいい。さっきは俺が一緒のせいでだめだったが、彼女自身はマヨヒガのことを知らないのだからきっと見つけることができるはず。そして何かを持ち帰ってくる。それをなんだかんだ言いくるめて俺が頂戴すればいい。そうしたら俺は大金持ちになれるってわけだ。
ほどなくしてミカが戻ってきた。手には木のお椀があった。
「ほうら、これが証拠よ。ちゃんと家はあったでしょ?」
どや顔の彼女の手からお椀をもぎ取った。
「うん、確かに。じゃあこれ、記念に俺がもらっておくよ」
「はぁ?何言ってんのよ。返しに行くんでしょ」
「別にいいって。こんなお椀の一つや二つ、安いもんだからわざわざ返さなくても」
「安いかどうかわかんないでしょ。仮に安くったって人のものを盗っちゃだめなのよ。泥棒なんだから」
彼女は力ずくでお椀を取り返しに来た。いくら理屈をこねようが諦めそうにない。
こうなったら仕方がない。お椀は手に入れたのだから、本当のことを話してやったほうがいいかもしれない。
俺はミカを何とか落ち着かせると、マヨヒガの話を語って聞かせた。
最初は怪訝な表情を浮かべていた彼女も、話の最後には目を輝かせ、
「え?じゃあ、そのお椀があればお金持ちになれるってこと?」
最初のコメントを投稿しよう!