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グランドスラム
グランドスラムに上げられる難所は三つ。
ザバ砂漠。地上最大の砂漠であり、その距離は東西に5000キロ以上。日中は50度を超える暑さ、夜はマイナス20度にもなる環境。そこを徒歩で横断する。当然降水量はきわめて少なく水の確保が急務であるのは誰でもわかるところであろう。
それに加え、先住民であるベルシロ人とダクロ人との友好な関係を築くことも重要である。彼らのネットワークや知恵を使わなければ、同じ場所をグルグルと回るばかり。飢えと乾きでやがて自らも砂となる。
次に極北氷河地帯。氷霊の棲み処とされる場所で、先住民すら近づくことがない凍てつく世界。寒冷地帯では犬橇が重宝されるが、あまりの寒さに犬がいうことをきかず、自ら橇を駆るしかない。
恐ろしいのはあまりの環境に精神を病むこと。氷霊に憑かれるといわれる。仲間の下を離れフラフラと一人で何も持たずに行ってしまい行方不明になる。大事な食料を燃やしてしまう。仲間を犬として橇をひかせた例もある。数年前には10人のグループが殺し合いをしてしまった。理由は、他人の血で暖をとるため。たった一人生き残り救出された男は、
「とてもあったかいんだよお」
と、まるで毛布にくるまれていたかのような顔でいった。
三つめは霊峰、宝山。ンデゲ語といわれる絵と字が混じったように見える文字を使う民族の聖地である。標高9926メートル。「ぶし」と呼ばれる聖職者の修行の場でもあり通常立ち入り禁止。入山するためには修行という目的が必要であり、そのためにまずは一年間彼らとともに教義に倣った共同生活をする。その後彼ら「ぶし」とともに入山。
急斜面と次第に少なくなっていく酸素。しかも、修行目的であるため装備は薄手の法衣と杖。せっかく一年間という時間をこの日のために待って過ごしても、脱落者は後を絶たない。
だが俺は「ぶし」たちといっしょに登り切った。彼らは幼少の頃より修行しているからこそそんなことができるのだという。それをわずか一年でやってしまう者が、数年に一人はいるという。「ぶし」たちは「選ばれし者」として賞賛とともに送り出してくれた。
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