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憧れの男「ロイス・ルイス」
俺はグランドスラムに数えられる三つの難所を一人で乗り切った。それが俺のやりたいことだからだ。
通常は数人から多い場合は10人以上のグループで挑む。だからそれをやったとき俺の名は一気に広まった。
だからこそ、トルデたちも俺に興味を示してくれたのだ。
最後のグランドスラムにして最強のグランドスラムである「悪魔の溜り場」へいっしょに挑まないかと。
トルデたちは有名な冒険家だった。トルデとオトニとサライの三人でいつも行動し、ザバ砂漠横断の最短記録も持っている。
非常に光栄だったが俺の意志を告げると尊重してくれた。実力だけでなくその人柄も素晴らしい人たちだ。
彼らならば100年達成できない難題をやってのけるかもしれない。そう思っていたというのに。
出発したのが二か月前。
それから音沙汰なし。
ロイス・ルイスの手記によれば、生還するまでの期間はおよそ二週間。よって、往復で約一か月はかかるだろうと単純計算され、そこから猶予としてさらに一か月。つまりは二か月が経過したところで失敗したとみなされる。
それが妥当なところだということは、挑戦したが挫折して戻って来た者たちの証言から明らかにされている。
こうして「悪魔の溜り場」への挑戦権が俺へと移った。
国は地域の動植物の保全を理由に森林地域への侵入に制限を設けている。
挑戦はグランドスラムの達成者である者に限られる。
挑戦中は他の挑戦者の進入を拒む。
条件がそろったので、申請をしていた俺に連絡があり、書類にサインした。いよいよ出発だ。
どれだけこの日を待ったことだろう。
ついに「悪魔の溜り場」に挑戦できるのだ。
ロイス・ルイスの手記に触れ、胸を躍らされ、絶対にやってやると意気込んできた。
手記も何度も読み、ボロボロになり、もう五回買い直している。
手記は全部で13か所が書かれている。
グランドスラムはもちろん、他にも「一年に一度だけ出現する海底洞窟」や「殺人者の湿地帯」などがある。
ロイス・ルイスほどの冒険家が13か所というのは少なすぎる。あくまでも「特に」という難所が手記として残されている。
書いたのは実はロイス・ルイス自身ではない。彼にはクリタという親友がいて、生還してはその親友に事の次第を話すのが毎度のことだとう。それをクリタがまとめて出版した。
それが『ロイス・ルイスの魔境制覇』。俺にとってのバイブルだ。
100年前の冒険家だが、時間が経ってもこれだけの冒険家はいやしない。最高最強の冒険家が彼だ。
その彼をしても「悪魔の溜り場」は特別な存在だったのだろう。
ここだけは親友クリタに任せず、ロイス・ルイス自身が執筆している。そして、そこを最後に彼は活動をやめている。
俺が憧れて止まない男「ロイス・ルイス」。俺はロイス・ルイスの足あとを追いかけているといってもいい。
彼は単独にこだわった。
だからこそ俺も単独にこだわる。
俺が憧れて止まない男「ロイス・ルイス」。
俺は憧れているだけでは終わらない。
俺は彼を超えて行く。
100年前にやってみろとつきつけた難題を俺がやってのけ、俺は彼を超える。
俺は「悪魔の溜り場」へと足を踏み入れた。
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