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たどり着いた真相
殺気を感じ取り俺は跳び起きた。
野生動物に狙われることもあるので、こういう感覚は習得済みだ。
見るとそれは野生動物ではなく人だった。
しかも、俺はかつて会ったことがある。
サライだ。
トルデといっしょにこの「悪魔の溜り場」に行かないかと誘ってくれた。
俺が尊敬する冒険家の一人。
トルデ組のメンバー。
トルデ組の戦闘担当。
野生動物や悪質な冒険家と時には戦わなければならないことがある。その時に真っ先に動くのか彼。通称「トルデ組の剣」。
その剣技で幾多の敵を蹴散らし仲間を守って来たと聞く。
その者からの殺気。
まさか誘いを断ったことを根に持ってここでそれを晴らそうと・・・。そんな馬鹿な。
馬鹿なというなら更に上のことがある。
サライは毒で満たされたといっていいこの場で防護服なしのむき出しでいるのだ。
有り得ない状況に、俺は冷静にならねばと目をこらす。
表情がうつろだ。
酔っ払い状態というか、寝ぼけ状態というか。
俺は先人の記録を思い出す。
この地で起きた悲劇。
蟲という奴は恐ろしい存在で寄生しその宿主を操る奴がいるという。有名なのはカタツムリに寄生し、わざと鳥に食べられやすく動くように操るやつ。
似たようなのはキノコ類にもいて蟲に寄生して自分が行きたいところへと蟲を操って移動するやつ。
この「狂蟲のダンスホール」ならば、それは人間にもおよぶ。
挑戦者一行の一人に蟲が寄生し、その者は仲間たちを次々と殺し、その血を飲んだ。
目の前にいるサライもおそらくそれだ。
この表情は操られているというにふさわしい。
サライはすでにサライではない。
なんてことだ。
寄生虫に操られたサライが仲間のトルデとオトニを殺したのだ。
これがトルデたちが生還しなかった理由。
サライが剣を振り下ろす。
俺は後方に逃げて間合いをとる。
足を開いて腰を落し、杖を構えた。
俺は単独にこだわってきた。
だから武術も学び、棒術を習得した。
500年の歴史のあるタカラクラ流棒術。
実戦も数多くこなしてきた。
高名な「トルデ組の剣」と呼ばれた男にも負けるわけにはいかないのだ。
これも俺が超えるべき壁。
俺はサライの足を刈るため杖で足払いを仕掛けた。
サライはそれをヒラリと避けジャンプする。
実は俺の狙いはそれで地面を這わせた杖を上空のサライの顔面へ。
彼の剣がそれを受けた。
俺は素早く後退する。
危ない危ない。
衝撃で杖を落しそうになってしまった。
やはりさすがといわざるを得ない。
稀にみる好敵手を前に俺はワクワクしていた。
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