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100年の成果
しばらくその光景とともに到達の喜びを噛みしめていた後、俺はあることに気づいた。
さっきまで俺が食っていた実から何か出て来ている。
その有り得なさに俺は慌てて立ち上がり、走り寄る。
実から出ているのは人の頭だ。
それは数か月前に会ったトルデだった。
一体どういう状況だこれは。何がどうしてこうなった。
俺は混乱しながらも、実の中からそれを引っぱり出した。
トルデは俺と体格はあまり変わらなかったはずだが、そこにあるのはそれが半分くらいになってしまっている姿だった。
俺は他の実も調べてみることにした。
食せば芳醇な喜びを与えてくれる果肉を、草でもむしるかのように手でかき分ける。
そこにはオトニの姿があった。トルデと同じようにその体を小さく縮ませて。
二人は仲間のサライに殺されたわけではなかったのだ。
見事この地に到達していた。
俺の記憶が頭の中でカシャカシャと鳴りながらこの旅路を振り返る。
大変な道のりだった。
だが、グランドスラムの達成者ならばたどり着けない場所ではなかったのではと。
自らが唯一の到達者であると豪語するほどのことであろうかと。
俺は他の実も潰した。
一個二個三個と。
そのどれにも人が入っていた。トルデたちよりも更に小さくなった姿。
トルデたちよりも先にこの地に挑戦した高名な冒険者。命を落としたとされていた者たち。面影がまだ残っている。
挑戦者たちの多くはこの地にたどり着いていたのだ。
そしてここで。
その時になって、俺はやっと自分の体につるが巻きついていることに気づいた。
ちぎって逃れようとしても、力が入らない。
程よく酔ってしまっているのだ。
つるはくねくねと俺の体をのぼり、耳の穴から俺を突き刺し。脳内に侵入する感触があった。
これは寄生植物だ。
人を捕えて果肉で覆い少しずつ養分を吸う。
実に見えたものは貯蔵庫。
俺も先人たちと同じように植物が生きていくためにぶらさがる。
果肉に包まれた世界で俺は考える。
ゆらゆらとハンモックに揺られながら心地よい日差しの中で昼寝をするように。
ロイス・ルイスはすでに操られていた。
鳥に食べられやすいように動くカタツムリのように。キノコの乗り物になるアリのように。トルデ組の剣と呼ばれた男のように。
『ロイス・ルイスの魔境制覇』の最後、13番目の魔境の回は、ロイス・ルイス自らが書いた。
たくさんの冒険者をこの地へと向かわせるために魅力的な言葉を随所にちりばめて。
100年。
(終わり)
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