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一番腹立たしいのは、休講やオンライン授業ではなく、そうやって自分のことを棚上げして適当なことばかり言ってくる連中だ。
――ああ、ほんと、見るんじゃなかった。
ぽろん、と通知音が響く。俺は慌ててマイクを直し、テレビ通話画面に切り替えた。一人暮らしの寂しい部屋の中、煌々と灯るパソコンの明かり。分かっている。こうしてオンライン授業に参加できるだけ、本当はまだマシだということくらいは。今は此処が、自分の大学の講義室だ。パソコンも持てないような貧乏な奴、知識がない奴に比べたら自分はずっと恵まれているはずなのだ。――今はそう思うしかないのである。
『時間になりました。それでは講義を始めたいと思います』
今日の二限目の授業は、人類学だった。元々俺は歴史系や心理学系の科目は好きな方である。その合わせ技に近い人類学を取るのに躊躇いはなかった。丁度、他の専用科目の講義もないタイミングであったというのもある。同時にサークルの先輩から、村山教授の話は面白いからオススメ!と言われていたというのもあった。
オンライン授業はBEEMのソフト上で行われ、真ん中に大きく学校から中継される先生のテレビ通話画面が表示されることになる。その周囲を、ぐるりと参加者のテレビ通話画面が、小さな小さな資格で取り囲んでいるという具合だ。十数人以上の参加者がいるので、一人あたりの枠はとっても小さい。俺自身の顔も、画面の中で豆粒程度に表示されているといった具合だ。
ちなみに講義の中で先生に質問があった場合は、マイクで話しかけるか、もしくは中央のチャット画面に文字を打ちこむことで伝わる仕組みとなっている。聞き間違いを防止するため、できれば音声ではなくチャットでの質問が推奨されていた。通話で話しかけてもいいというのは、どちらかといえばタイピングが苦手な生徒への救済策のようなものである。
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