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ふと、俺はぐるりと取り囲む参加者の“窓”のうち、一つだけ真っ暗になっているものがあることに気づいた。枠そのものが表示されているということは、テレビ通話を切っているわけではない。画面に黒い布でもかぶせているのか、あるいはなんらかの故障か不具合か。ログインしている名前は『0000』となっていた。授業なのに本名を表示しないなんて意味あるのか?と俺は眉をひそめる。誰が参加したのかわからなければ、出席したことにもならないというのに。この会議室に入って来れるというのなら、大学の同じキャンパスの生徒であるのは間違いないのだろうが――。
『えっと、前回のおさらいから始めたいのですが……その前に。一人、名前が表示されていない参加者がいらっしゃいますね。0000さん、お名前を本名に変えてください。でないと、出席が取れません』
やはり、それは問題だと彼も思ったのだろう。穏やかな老紳士然とした村山教授は、困ったように画面に向けて語りかけてくる。
すると。
『村山教授。授業の前に質問があります』
その“0000”という名前の生徒は教授のお願いを無視したまま、チャットに全く別の文章を打ってきたのだ。ちなみにこのチャットの内容は、参加者全員に公開されていて見られるようになっている。
『どうして人を殺してはいけないのですか』
――おいおい。こいつ、やばいやつじゃないのか。
流石に、ドン引いた。どこの誰だか知らないが、何でいきなりそんな厨二でヘビーな質問をぶつけてくるんだ、と。講義の内容にも全く関係がない。質問された村山教授もドン引いた様子で完全に固まってしまっている。
すると“0000”は、再度長文を打ちこんできたのだった。
『僕は、邪魔だと思った人を簡単に殺すことができます。
どこでも、だれでも、殺せます。
要らない、と思うだけで殺せます。
会うことがなくても殺せます。
殺したいと思えば殺せます。
相手の名前を知らなくても、相手と会わなくても、地球の裏側でも、ただ顔を知っているだけで殺せます。僕は今までずっと考えてきました。この力はなんのためにあるのだろうかと。きっと、このつまらない世界を変えるためにあるに違いないと信じてきました。
でも、くだらない大人は、いつも人を殺してはいけないと言います。
どうして殺してはいけないのですか。
ゴミみたいな人間はたくさんいます。
僕は、無能な人間は、みんな殺して地球を綺麗にした方がいいと思っています』
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