だれ。

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 タイピングが、恐ろしく早い。書き込み中、の表示が出たと思ったらすぐに全文が現れた。それも、明らかに頭のネジは十本は外れているとしか思えないような、狂った内容である。  普通なら、こんなイカレた生徒に授業妨害されたら、さっさと黙らせるか追い出すくらいしても叱られないことだろう。ただ村山教授は評判通り、穏やかで優しい人格者だったようだ。そんなイカレた参加者の質問に、彼は静かに答えたのである。 『君に、そんな力が本当にあるのかどうかはわからない。私は超能力関係に関しては知識なんてほとんどない、素人同然だからね。でも仮にそんなものがあったとしても、人を殺すのはいけないと断言できるよ』  だってそうだろう?と彼は続ける。 『どんな人にでも家族がいる。その人を必要としている人がいる。君にとっては邪魔な人、要らない人に思えたとしても、誰かにとっては大切な人で、必要な人に違いないんだ。だから誰かの一存で、その命を奪うようなことがあってはならないんだよ。誰だって、幸せに生きる権利を持っているのだからね』 『僕にはわかりません。力を持っているのは僕なのに、何故僕はそんな知らない人に配慮をしなければいけないのですか。必要な命とそうではない命を、力を行使する僕が何故決めてはいけないのですか』 『0000君。君がどこの誰かはわからないがね。君にそんな力があるとしたら、それは誰かを殺すためではなく、守るためにあるものなのではないかな。君は強い者として、誰かを守るために選ばれたと、そう考えることはできないかな?』  教授凄いな、と思わず俺は感心してしまった。こんなサイコパスのような奴を、よくもまあまともに説得しようとする気になるものである。おかげさまで授業が出席を取る段階で止まってしまい、ちっとも進まないと言えばそうなのだけれど。 『思いません。僕は、誰かを殺す権利があると思います』  腹立たしいのは。そんな教授の真摯な態度を、平然と否定する書き込みをする“0000”である。
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