だれ。

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『というか、もしそんな力があるとしたらってなんなんですか。先生は僕の力を信じてないということですか。先生も僕を認める器がないということはつまり、無能ということですよね。無能だというのなら、殺してもいい存在ということですよね?』  ダメだ、完全に狂ってる。もうこんな奴、BEEMの会議室から追い出した方がいい。完全に授業妨害だし、胸糞悪すぎる。そう進言しようかなと、俺がチャットに打ち込もうとした時だ。 『先生、こんな自分の名前も名乗らない迷惑な人に構う必要ないと思います。授業が進みませんし、完全に頭がおかしいです』  別の学生が、俺より先にチャットで発言した。知ってる人物だ。同じ学科の、田町志穂(たまちしほ)。わざわざ沖縄から建築士を目指すべく上京してきた女の子だ。ボブカットの、ちょっと可愛い子だったのでよく覚えている。話した数はそう多くはないけれど。  すると彼女の発言に乗っかるように、他にも数名の生徒が書き込んできたのだ。 『俺も同感です』 『先生が優しいのはわかるけど、正直この人は気持ち悪いです。名前も名乗らないし』 『下手したら、講義に登録してない生徒がまぎれこんでるのかも。完全に荒らしてるだけのような気がします』 『このままじゃ授業が進まないです……』  なんだかほっとしてしまった。迷惑だと思っているのが自分だけではなかったと気づいたからだ。俺も彼らの発言の最後に、同意の言葉をそっと書き加えることにする。 『先生、授業を進めてください。この人に構っている時間がもったいないと思います』  きっと、教授もこのまま長々と話をするつもりはなかったのだろう。それもそうだね、と呟き。0000君、と話しかけた。 『すまないが、君の話はここまでにさせてくれないか。どうしても話したいのなら、個人のチャットでやろう。今のこの場所は、人類学の授業をするところだからね。君一人のそういった質問に、時間を取ることは難しいんだ』  きっと。  教授は、人として至極真っ当な対応をしただけに過ぎないのだろう。先生の中には怒り狂って、問答無用で会議室から強制退去させることだって有り得たはずなのだから。  そう、だから彼は悪くない。それでも。 『みんな僕を否定するんですね』  あえて言うのなら、一つだ。  相手が、悪かった。 『じゃあみんな 死ね』
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