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気味が悪いことに。あの日、0000を目撃した人間は多数に上るというのに、学校側もその正体をいまだに突き止められていないということである。BEEMには、名前がきちんと表示されていた十六人しか会議室に参加していないことになっていた。十七人目の0000が会話に参加した記録さえ、どこにも残っていなかったのである。当然、IPアドレスから辿るなんてこともできるはずがない。あそこに乱入してきたということはつまり、大学の生徒か教職員である可能性が高いことは間違いないというのに。
――何でだよ!俺も先生も、なんも間違ったことなんか言ってないってのに……!
『僕は、邪魔だと思った人を簡単に殺すことができます。
どこでも、だれでも、殺せます。
要らない、と思うだけで殺せます。
会うことがなくても殺せます。
殺したいと思えば殺せます。
相手の名前を知らなくても、相手と会わなくても、地球の裏側でも、ただ顔を知っているだけで殺せます。僕は今までずっと考えてきました。この力はなんのためにあるのだろうかと。きっと、このつまらない世界を変えるためにあるに違いないと信じてきました。
でも、くだらない大人は、いつも人を殺してはいけないと言います。
どうして殺してはいけないのですか。
ゴミみたいな人間はたくさんいます。
僕は、無能な人間は、みんな殺して地球を綺麗にした方がいいと思っています』
あの、イカレたような000の言葉が蘇り、頭がおかしくなりそうだった。
顔を知っているだけで、殺せる。
自分はあの時テレビ通話にしていた。自分の顔を、0000の方は見ているということ。もしあの言葉が本当なら、逃げる術などどこにも――。
――お前は、お前は誰なんだ。どうしてこんなことをするんだ。
あの授業に参加しなければ良かったのか。それとも、他の人に便乗して余計な書き込みをしなければ良かったのか。
確かなことは、一つだけ。どれだけ悔やんでも、時間はけして戻らないということ。
――嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だ!あんな、どこの誰かもわからない奴に殺されるなんて絶対に……!
みしり、と音がした。
それがベッドがきしむ音だと気づいた時、俺は声も出せずに凍り付くしかなかったのである。
この一人暮らしの部屋には、自分一人しかいない。いるはずがないというのに――。
「言いましたよね」
耳元で、男とも女ともつかぬ笑い声がしたのだ。
「死ねって」
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