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「違うから。ただの従兄妹同士だから! それ以上でも以下でもないから!!」
「そ、そうなの? あ、そうだ。茜から聞きました、先日忌一さんが恐ろしい怪異を解決されたって」
それは茜が勤める不動産屋の物件で、取り壊そうとすると必ず何かしらの不慮の事故が起こり、更地に出来ないという古い洋館のことだ。
数年前に陰陽師の修行をしたが働きもせずニートをしている忌一に、視るだけ視てと頼んだ結果、現在その物件は見事更地となり、土地は既に別の所有者の手へと渡っている。
現場に忌一を連れて行ったのは茜だが、何がどうなって解決したのかまでは目撃していない。ただ全てが終わった時、忌一は救急車で運ばれるほどの重傷を負っており、その場に倒れていたのだった。
「あれはたまたまで! 俺には何の力も無いんで、期待されると困るんだけど……」
「え?」
「ま、まぁまぁ! まずは伊織の話を聞いてあげてよ」
伊織は現在進行形で怪異に悩まされていると言う。それで今回、茜は忌一を紹介することにしたのだった。
「二週間ほど前、夜中にドアホンが鳴ったんです。ピンポーンて。居酒屋のバイトから帰ってきてお風呂に入った後だったから、午前ニ時くらいでしょうか。その時はとりあえず玄関までこっそり近づいて、覗き穴を覗いたんです。でも外には誰もいなくて……念のためフライパンを片手に扉を開けてみました。でもやっぱりそこには誰もいなかったんです」
その日をきっかけに、毎晩同じ時刻になると足音が聞こえるのだと言う。彼女の住むアパートのニ階まで階段を上り、部屋の前まで来てピタッと足音は止まるのだと。
「ドアホンは鳴らさないんですか?」
「最初の日以外は鳴っていません。覗き穴を覗いてもやっぱり誰もいないし。でも足音だけが部屋の前まで毎晩のように来るんです。それに……」
「それに? どうしたの、伊織」
「ドアホンが鳴らされた日以降、ずっと誰かに見られているような気がして、何だか気持ちが悪くて……」
伊織は両腕を抱えて震えていた。
美人がそのような態度をとると、何とも庇護欲をそそるもんだなぁと、忌一は改めて感心する。
「視るだけ視てあげてよ、忌一。私からもお願い」
これ見よがしに両手を合わせ、上目遣いで茜は懇願する。
(このダメ押しはズルいよなぁ…)
そう思いながらも、忌一は渋々「じゃあ、とりあえず部屋を見せて貰えますか?」と、おもむろに席を立つのだった。
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