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「まだ開店前だから注文は出来ないけど……」と前置きして、店奥の暖簾で仕切られた個室へ二人を通し、伊織はコップに入ったお冷だけを置いて行った。十五分後に開店するので、その時間になったらメニューを訊きに来ると言い残して。
「そろそろ説明してくれる? 何で蛙の足あとを追ったらあの後輩の部屋に繋がってて、二人はここで一緒にバイトしてるのか」
少しイラつき気味に茜は問い質す。怖がりだからか、予想外の連続でフラストレーションが溜まっているらしい。
「彼女の部屋の蛙は……彼自身なんだと思う」
「どういうこと?」
「蛙は彼の生霊ってことだ。最も彼自身、生霊を飛ばしてる自覚は無いだろうけど」
誰かに強い執着を持っていると、人は知らず知らずのうちに生霊を飛ばすことがあるのだと説明する。執着は強い恨みだったり、憧れだったり、心配だったり、恋慕だったり……様々だ。
「じゃあ剛之君は、伊織のこと……」
「多分、好きなんだろうな」
「好きだと必ず飛ばしちゃうもの?」
「いや、そんなことはないよ……って今何の心配した? 俺が茜に生霊飛ばしてるか確認しただろ?」
「エヘ……バレた?」
「あのなぁ。そんなこと滅多に起こらないから安心しろよ」
「そうなの? じゃあ何で彼は……」
(それは、あいつの頭に乗っかってるのが原因なんだろうな……)
剛之のボロアパートへ行った時、忌一が彼の顔を見れなかったのには理由があった。それは彼の頭に、異形がへばりついていたからだ。
その異形は体中に沢山の目があり、剛之の首から上をすっぽりと覆っていたので、忌一には彼がどんな顔をしているのか全くわからなかった。
この異形が力を貸したことで、剛之は生霊を飛ばせたのだろう。よっぽどの執念でもない限り、そう簡単に普通の人間が生霊を飛ばすことは出来ないのだ。
茜には蛙と表現しているが、伊織の部屋に居た生霊は目だけが異様にデカい男……剛之が四つん這いで天井にくっついていた。
もし彼の頭に異形が付いていなければ、天井に這いつくばっていた男が剛之かどうか、すぐに確認出来ただろう。だがそもそも異形が彼に憑りついていなければ、剛之は生霊を飛ばせなかったとも言える。
彼に憑りついている異形こそが、彼が生霊を飛ばしている原因であり、証拠なのだ。
「どうやったら、剛之君は生霊を飛ばさなくなるの?」
「そこだよなぁ……」
異形を剛之から引っぺがす。これが解答だが、忌一にとってそれは簡単なことではなかった。
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