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第1話 超能力
「いい? 和也。切符は、絶対に落としたら駄目よ!」
「分かってるよ。お母さん」
『井上和也』は、溜息混じりに言った。白い息が一瞬のうちに消えていく。
母は心配性過ぎる。この忠告はもう三度目だ。いい加減聞き飽きた。
これから遊びに行く祖父母の家は、ここから二十分程。一度乗り換えをするが、それも向かいのホーム。
「一人でも大丈夫だよ。前にお母さんと乗ったもん」
「本当に? 分からなくなったら駅員さんに聞くのよ」
母の、心配の余りに死んでしまいそうな表情を見ていると、乗るのを止めようかという気分になるが、一度決めたことはやり遂げたい性格だった。
「切符は落とさないし、分からなくなったらちゃんと聞くよ。行って来ます」
そう早口で言い、母に背を向けてホームへと上がる階段へ向かった。
「気を付けてね」
母の身を案じる言葉が、遠く聞こえた。
つい先程までかなりの自信があったのに、母と離れると一気に不安が顔を出した。
今まで母と辿った道のりを思い出そうとするが、何か間違っているような気がする。
無事にたどり着けるだろうか。という不安を振り払い、和也は止まりかけた足を動かして階段を登った。
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