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食料が運ばれる頃を見計らって、待っても無駄に終わる。それはわかった。じゃあ、待つのではなく、運に任せてみようか。偶然の出会いに。
「きっと、それも上手く行かない。僕は不毛のなか、生きるしかないのだ…」
いやいや、そんな弱気ではだめだ。僕は、気持ちが上向きになったり、下向きになったり、生きていくモチベーションをジェットコースターのように流していた。
程なくして、偶然が微笑んだ。食料を運んで来る「者」との遭遇に出くわしたのだった。それは、本当に「モノ」だった。血が通う人間でなく「人工物」だった。つまり、ロボットだ。口はきけない。食料を置いたら、僕が目の前にいることなんか眼中になく、さっさと出て行った。追いかけようとしても無駄だった。その瞬間、足が動かなくなったからだ。
「もういやだ。いっそ、命尽きて、この状態から逃れたい」絶望が頭の中をぐるぐると駆け巡った。
食料を人間が運んで来ているなんて、甘い幻想だったな、日々、技術は進歩している世の中だ。僕は、きっと何かの実験台にされているのだろうな。
翌朝、目が覚めたときいつもと同じ風景、のようで何かが違った。人の声が聞こえる。何故?
「パパ。いつまで寝てるの?」
「ゆかり…」
僕をのぞき込んで不思議そうに見ているのは娘だった。とすると、元の日常に戻ったということか。もう、頭が混乱してきたぞ。
ただ、何となく「元」の状態とは違うような感じだった。娘はいるが、妻はいない。家は同じだが、娘のものは何もない。起き上がり、しばらくするとその娘もいつしか消えていなくなっていた。
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