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不審者対応もひと段落着いたので伸びをしていると、また入店を告げるポップな音楽が鳴った。今度は普通の客のようだ。小太りで、マスクとニット帽を被ったおじさんが入って来る。
「おい店員、そこを動くな!」
開口一番とても聞き覚えのある声でそう告げられた。ついぞ先ほどまで画面越しに聞いていたその声でほぼ間違いなかった。
どうやら埒が明かなくなった彼はついに店舗までやってきてしまったのだろう。
先程まではどうせ危害がないと思って適当な対応をしていたが、さすがに強盗を名乗っていた彼と実際に対峙するとじわじわと恐怖心が湧き出て来る。
「もう少し奥へ行け。とにかく非常用ボタンを押せない距離まで移動しろ」
言われた通りに店の奥へと移動する。
先ほどは別に正義感からお金を渡さなかったわけではない。渡す必要性が無さそうだったから渡さなかったのだ。
この状況だと銃や刃物は持ってきていないにしても、殴られでもしたら厄介である。ただのバイトの身で体を張ってまでコンビニのお金を守る気にはなれない。
レジのお金が取られていくのを黙ってみていることになるのだろうから、後日店長にする言い訳の内容だけは考えておいたほうがいいかもしれない。
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