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「強盗だ、金を出せ!」
その声は初め黒衣の彼が発したものだと思った。顔が隠れているため、言葉を発したのかどうかもわからないが、今店内にいる人間が僕と目の前の黒衣だけなのでそう考えるのが自然だろう。
何が起きているのかよくわからず、僕はしばらく硬直したままになっていた。
「おい、早く金の準備をしろ」
こちらが何の反応をしなかったからか、再びお金を要求される。
力強い感情的な声とは対照的に、黒衣は依然としてパソコンを持ったまま微動だにしていない。
「えーっと、あなたがお金の要求をしているということでいいんですか?」
黒衣に向けて尋ねてみると、黒衣は静かに首を振り否定する。
「えーっと……」
困惑していると、黒衣がパソコンの方を顎で指す。黒い布が顔を覆っているので、表情は読み取れないが、どうやらパソコンを見ろということなのだろう。
しかし画面は真っ暗だった。
「えーっと……なんですか、これ?」
画面を指差して確認してみる。
黒衣も画面をのぞき込むと小さな声で「あ、やべっ」と呟いてあわててタッチパッドを擦る。
真っ暗だった画面に映像が映る。目出し帽で覆面をした男の顔が画面には映っていた。顔の全貌は見えないので正確な表情はわからないが、目元が少々不機嫌そうに感じられた。
「おい、もう一度言うぞ。か・ね・を・だ・せ!」
画面に映った覆面男の口がはっきりと動いていた。
どうやら先ほどから声を出していたのは画面上の覆面男のようだ。
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