§15

9/12
427人が本棚に入れています
本棚に追加
/209ページ
 後藤の、低くて甘い声だ。僕は密かに安堵の吐息を漏らした。  傍らに置いた灰皿に煙草を押し付けて、後藤がこっちのベッドまで戻ってくる。 「目が覚めたとき、相手が隣にいないのって最悪だぞ」  僕の肩を抱え込むように腰を下ろした後藤に、憎まれ口を叩く。 「寂しがり屋だな、奎吾は」 「うるさい」  こんなこと思うのはお前に対してだけだ。  さらさらと落ちる後ろ髪を掻き分けるみたいにして、うなじに柔らかなキスが()される。僕の髪が煙の余韻をまとう。 「お前がアメリカから戻ってくる前に、新居用のダブルベッドを見繕っておくか」 「そういう意味で言ったんじゃない」  後藤は喉の奥で満足そうな笑い声を立てると、手を伸ばしてサイドテーブルのランプのスイッチを入れた。 「あ、もう日付変わったのか」  眩しさに目を細めながら、デジタル時計の表示を見て後藤が言う。僕はベッドから滑り出た。 「腹減ったんじゃねえの? コーヒーとサンドイッチ、買ってあるぜ」
/209ページ

最初のコメントを投稿しよう!