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後藤の、低くて甘い声だ。僕は密かに安堵の吐息を漏らした。
傍らに置いた灰皿に煙草を押し付けて、後藤がこっちのベッドまで戻ってくる。
「目が覚めたとき、相手が隣にいないのって最悪だぞ」
僕の肩を抱え込むように腰を下ろした後藤に、憎まれ口を叩く。
「寂しがり屋だな、奎吾は」
「うるさい」
こんなこと思うのはお前に対してだけだ。
さらさらと落ちる後ろ髪を掻き分けるみたいにして、うなじに柔らかなキスが捺される。僕の髪が煙の余韻をまとう。
「お前がアメリカから戻ってくる前に、新居用のダブルベッドを見繕っておくか」
「そういう意味で言ったんじゃない」
後藤は喉の奥で満足そうな笑い声を立てると、手を伸ばしてサイドテーブルのランプのスイッチを入れた。
「あ、もう日付変わったのか」
眩しさに目を細めながら、デジタル時計の表示を見て後藤が言う。僕はベッドから滑り出た。
「腹減ったんじゃねえの? コーヒーとサンドイッチ、買ってあるぜ」
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