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デスクの上に並ぶ二匹のハリネズミが、キーボードを叩く僕を仲良く見守っている。その僕の耳に、ヘッドホンはない。結んでいない襟足の髪を、後藤の長い指がゆっくりと撫でている。今みたいに。
半分だけの方舟は、案外乗り心地は悪くなさそうだ。仕事の効率は少し落ちるかもしれないけど。
それとも、むしろ集中力は上がるだろうか。
「なあ」
後藤の腕の中で、僕は顔を上げた。
「なんだ」
「雨、まだ降ってるかな」
後藤も顔を上げて窓の方を向く。
「ああ……もうやんだんじゃねえかな」
「じゃあ、一眠りしたらドライブにでも連れてってくれよ」
「ドライブ?」
「そう。デートしようぜ。取材じゃない、ちゃんとしたやつ」
もう一度こちらを向いた後藤の目が、軽く見開かれる。
僕はその顔に手を伸ばして、邪魔な眼鏡を奪い取った。
(了)
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