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「若くて綺麗な男はお前の好みだったんじゃないのか」  その後藤に含み笑いで呼びかけたのは、もう一人の四十絡みの男だ。名詞には「編集長 里見伶(さとみれい)」とあるが、上等そうなスーツに身を包んだ端整な姿は弁護士か何かのようだ。ビジネスホテルの安っぽい応接セットの椅子が、彼が腰をかけると、映画やドラマに登場する海外の一流法律事務所の家具のように見えてくる。  編集長のその指摘に、後藤は悪人面でにやりと笑う。 「ベッドの上でなら、若い男の尻を拭ってやるのもやぶさかじゃないんですがね」  そして、部屋に二つあるベッドのうちのひとつにどさりと腰を下ろすと、長い脚を見せつけるようにひらりと組んだ。  いかがわしい物言いに、僕は思いきり顔をしかめてしまう。今夜の寝床には、この下品な男が座らなかった方のベッドを使おう。 「依頼した仕事をきっちりこなしてくれるなら、こっちとしては相手が小学生でも構わないけどね」
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