10人が本棚に入れています
本棚に追加
猫と異世界 後編
<3>
目の前で起きたことは果たして現実なのだろうか、それとも夢なのだろうか。人は信じられないことが目の前で実際に起こるとなにもできないのだろう、昔本でそんなことが書かれてあった気がする
「キミの名前は?」
何度見ても美しい顔立ちに猫耳、そして肩まで伸びた白髪に綺麗な青色の瞳、この猫耳美少女はつい先程までは猫だった。なのに気づいたら人間……人間というには猫耳がついておりまるで小説の中のような気さえもする
「俺か? 俺は如月楓、それよりお前なんで、というか──」
お前は人間なのか? と言おうとしたがその前に口を塞がれてしまった。もごもごともがくが意味がなかった
「私は人間ではないよ」
そして、聞きたかったこと、知りたかったことを答えてくれた
「でも、ただの猫というと少し納得できないだろうね、実は私は異世界の魔女なんだよ」
「は……? 異世界? え、待てよ。それに魔女って、嘘をつくならもっとましな嘘にしとけよ、誰が信じるんだよそんな非現実的なこと」
確かに目の前で猫は人間に姿を変えた、それは紛れもなく非現実的なこと。それが目の前で起きたのも事実、だからって異世界とか魔女とか言われてはいそうですかって信じれるかといったらまったくもって別問題である
「うんうん、最初はキミもそういう反応になるよね。一応この世界には異世界に転移するに値する──勇者を探しにきてたんだけど」
面白そうだから、と目の前の少女は微笑み
「キミを連れていくよ」
とんでもないことを発言した
「どういうことだよ、説明しろよ!」
思わず怒鳴るが少女は一切気にした様子も出さずに楓が運んできた箱の中身を漁るとみたらし団子を取り出した
「うん、やっぱり日本の団子は美味しいね」
そう言いながらどんどんみたらし団子が箱から無くなっていく。その小さな体のどこにあんな量のみたらし団子が入るんだとツッコミを入れそうになるのを我慢
「キミには勇者の素質があるんだよ」
「私にはわかる、他に勇者は3人呼ばれるけど1番強くなるのは──キミだ」
だんだんわけがんからなくなってきた、というかなんだこの匂いは──
「あぁ、いま気づいたのかな? この屋敷には睡眠作用のあるお香を焚いていたんだ。そろそろ眠くなる頃合だろう、起きた頃にはきっとそこは異世界だね」
「ま、て……まだ、話は、終わってな──」
「おやすみ、頑張ってね」
その言葉を最後に意識を失った
<4>
ここは……どこだ? 目をゆっくりと開けると目の前には広間のようなものが見える、下にはいかにもな魔法陣。とすると──
「ようこそ、我が国、いえ。この世界に」
その言葉にハッとして声の主を探す。前方に教会の法皇が着そうな服をまとったお爺さんがそこにいた
「貴方たち4名は勇者としてこの世界に運ばれました。まずは、ご挨拶を──私はサイと申します」
勇者──そうか、思いだした。確か猫を助けて屋敷にみたらし団子を届けにいってそこから……魔女と名乗る少女に異世界へ運ばれたんだっけな
「まずはこちらへ、我が王がぜひとも勇者様にお会いしたいと」
サイという爺さんに連れられ金の装飾の入った廊下を歩く。この廊下だけでもかなりの額が使われてそうだなとのんきに考えているとついに王様の部屋に到着した
「勇者様の御成です」
その言葉と共にドアがぎしぎしと鳴りながらゆっくりと開いた。そのドアからサイを先頭に中に入っていく、サイが右にずれたの確認して勇者として迎えられた4人は横に並ぶ
「ようこそ、勇者殿。我が名はアルベール・ティ・ミリアリア、このミリアリア王国の王である」
なるほど、どこまでも異世界というものはテンプレだなと心の底で関心した。どうせこの後チート能力が判明して世界を救うとかそんな流れだろう、そう余裕をみせていた
「まずは、勇者殿の名前を伺いたい、そちらから順に述べよ」
「はい、僕は佐藤蓮太郎」
黒髪黒目、髪は整えられており日本にいたのならイケメンと騒がれていたであろう、とても優しそうなイメージがある
「三浦、颯汰」
こっちはこっちで髪は赤茶に染められているが見た感じまだ中学生だろうか、幼さがまだ少し残っていた
「俺か、俺は小泉隼人だ! 王よ、俺がきたからにはなんでも力になると約束しよう!」
隼人と名乗ったこの青年は金髪に染め、ピアスもつけていた。陽キャとかいう部類に入るんだろうなと思うくらいにかなりのポジティブ思考……というか面倒くさそうな感じが伝わった
「俺は如月楓」
なら最後は簡単に締めようと思い単純な自己紹介にした
「うむ、御苦労。それでは早速ですまぬがお前たちのステータスボードを発行する──おい、サイ爺」
「は、ここに」
サイ爺と呼ばれたサイは4枚のカードと水晶をこちらに持ってきた。それぞれに配られたカードを水晶の上にかざせばいいとのことだ。さっそく蓮太郎からやっていく
「レベルは──1からですか。スキルは『剣術+S』『炎魔法+S』『体術+S』の3つですね、称号の欄には《剣の勇者》と記されていました」
その言葉を聞いた王様は満足したように頷き颯汰を見る
「レベルは、1。スキルが『全属性魔法+S』『魔力操作+S』『全属性魔法耐性+S』称号は《杖の勇者》」
その言葉に周りが驚いた表情を隠せずにいた。そりゃそうだ、全属性魔法に全属性魔法耐性ときたらチートもいいとこだ。その分期待もできると淡い期待を寄せていた
「俺はレベル1! スキルは──『聖槍召喚』『槍術+S』『光魔法+A』、称号は《光の勇者》ってなってるな、光の勇者ってどういうことだ?」
その言葉にこれ以上にない驚きが広間に広がっていく。サイが説明してくれたがこの世界の一般常識として全属性魔法は四代魔法と言われており炎、水、土、風の四つから成り立つ、ならば光魔法とはなにか、それは古より伝わってきた古魔術、光、闇、時、無の四代魔術である。しかもとても珍しく千年に一度の逸材だとか、それが目の前で起きてしまったのだ。そりゃこうなるのも頷ける
「俺は……っと、レベル1、スキルが──は? ない? なんで、え、嘘だろ。なんでスキルがないんだ」
自分の番になったのでステータスボードを発行するがスキルは一つも記されておらず称号も空白だった。見れば王やその周りの人間も明らかに落胆しているのがわかる、他の勇者は興味がなさそうだ
「とにかく、今日の所はここで終わりにしよう。また三日後、勇者殿の序列を上げる大会を設けよう。実力に応じた地位と権力も必要だろうからな」
そう言うと勇者四名は広間から出された
【称号:なし
名前:如月楓
スキル:なし
レベル:1 】
ステータスボードにはそれしか記されてなかった。あれ、他の奴らはあんなにチート能力を手にしてるのに俺だけないのか……? そんな馬鹿なことってあんのかよ……仕方ない、三日後の序列大会も気になるし剣の腕だけでも上げておかないとな
そう決意して勇者専用の個室へと足をはこんだ
-------------------‐------------------‐-------------------
こんにちは、月夜椎名と申します。
これで第1話、猫と異世界編を終わります。
次は第2話でお会いしましょう
スターをどうぞよろしくお願いします
最初のコメントを投稿しよう!