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裏切られた現実 前編
<1>
部屋につき、いろいろあったことからかすぐに眠気がやってきた。ベッドに身を任せながらゆっくりと考える
「スキルがない、称号もない。でもあの時あいつは言ってたはずだ」
( ──キミは、どの勇者よりも強くなるだろう)
でも、現実はなにもないままだ。でも一つだけ気になったことがある
ベッドから体を起こしてサイに教わった訓練場へ足を運ぶ。そこには木剣が置いてありこれで三日後大会に出なければならないと思われる
「軽いな……例えばだけど、ステータスボードには記されてないだけで身体能力が特化してるとかそういうのはないのか?」
そう思って勢いよく剣を振るがあまりにも力任せの縦構えのため思いきって前方に転んでしまった。これではダメだ、勇者として異世界に召喚されたのなら少しでも役に立てるようになりたい、必要とされたい
「ふんっ……! くそ、中々上手くいかないな」
そのとき、右奥のほうで炎が舞い上がった。舞い上がったというと少し言い方が悪いだろう、気になって仕方ないので慎重に近づくとそこには佐藤蓮太郎がいた
「貴方も、訓練ですか? ええっと……あぁ、如月楓さんでしたね」
完全に舐められている証拠だった
「もしよければですが──」
そしてこの流れは
「模擬戦、しませんか?」
やはり、そうだろう。断る理由もなく黙っているとそれを了承と見なしたのか剣を構える
「それでは、始めますよ!」
気合一閃、鍛え上げてきた反射速度を駆使して咄嗟に後ろに回り込む、勇者としての素質がないなら経験でカバーする
「へぇ、速い反応速度ですね」
さすがに蓮太郎も驚いていた、が
「『刺突』ッ!」
蓮太郎はその速度にすら追いつき後ろを振り向き腹に狙いを定めて木剣を突き出した
「──お、らぁぁ!」
さすがの反応速度というべきか、間一髪というとこで木剣で木剣の突き技をガード
「まだまだです、乱れ咲け──『焔火扇』」
蓮太郎の剣の周りを取り囲むように扇形の炎がまといつく、これだ。先程見えた炎の舞は、とするとこの技は危な──
「ぐはっ……! あ、ぐぁ、は、ぐ……」
見事に全身で受けてしまいダメージが大きくすぐには立てないようだ。まさに瞬殺ともいえるような模擬戦だった
「試合時間、僅か六秒ですか。仕方ないですよね貴方はなにもスキルがないんですから、あまり落ち込まないでくださいね」
そう言って蓮太郎は訓練場から出ていった。残されたのは自己嫌悪と僅かな憂鬱……このまま努力してもあの3人の勇者には手が届かないんじゃないかという不安、勇者としての素質がないならなんで召喚されたのかわからない
「く、そ……今日は部屋で休むか」
痛む体を無理やりたたせ落ちた木剣を掴む
「そういえばあいつって《剣の勇者》だったな、そりゃ当然負けるよな……は、ははっ。はははっ当たり前だよな、あいつはスキル持ち、称号持ち。対する俺はスキルもなければ称号もないただの勇者だ! まぁいい、俺はできるとこまで頑張ろう」
──そのために、異世界にきたんだから
<2>
「これが……」
眼前に広がる光景に思わず感嘆した
「さぁ、これより勇者殿の序列がどれくらい上がるかのテストを始める!」
そう、あれから三日が経ちとうとう序列とかいうものをあげる日がやってきたのだ。目の前には日本で言うところの『コロシアム』だの『武道場』みたいなのがドーム場に広がっていた
「それでは、まずは説明をしよう」
そう言うとサイがやってきて王様は後ろの観客席みたいなとこに帰っていった
「勇者様たちにはこれよりモンスターと戦闘してもらいます。ステータスボードを確認すればわかるかと思いますが今勇者様たちの序列は十万位でございます」
本当だ、気づかなかったけだ名前の横に序列と思わしき数字が記載されていた
「まずは、ゴブリン3体の討伐。これで十万位から八万位、次にジャイアントラットの討伐で一万位となります。ここまでは楽勝でしょう」
そう言って息を整えると
「そして、私が召喚する魔物──死霊騎士の討伐で一万位から五千位になります。おそらくここまでいけば上出来でしょうが一応その次も用意しております、フェンリルの討伐で千位になります」
なるほど、と思った。しかし上がりすぎではないだろうか、それだと勇者でなくても千位以内に入るのが簡単に思える。そんな気持ちが伝わったのかサイはこちらを見ると微笑した
「それでは、まずは佐藤蓮太郎様からどうぞ」
「はい、わかりました。五千位までは頑張ってみますね」
そう言い残して蓮太郎はドームの中へ飛び降りた。それと同時に前方の鉄格子が上にあがる、そして中から出てきたのは緑色の体をした小さいゴブリン
「それでは、やりましょう……っと!」
蓮太郎は三日前に見せた『焔火扇』の構えをとる、ゴブリンはそれに気づかずに棍棒を振り回しながら蓮太郎へ近づく。なにも考えてない行動だ、これなら俺でも勝てると思えた
「乱れ咲け……! 『焔火扇』ッ!」
「グギャ!? グギャギャ、グギ……ギ」
あっという間にゴブリン二体を瞬殺した蓮太郎はその勢いで真ん中のゴブリンに剣を突き刺す──確か、『刺突』という技だったような気がする
「簡単ですね、次は確かジャイアントラットでしたか、サイさん! いつでもいいですよ」
蓮太郎の合図とともにまたしても鉄格子が開く、そして中から現れたのはでかいネズミだった。前歯がかなり大きく鋭い形状をしているあれで噛まれたらひとたまりもないだろう
「これは、大きいですね」
蓮太郎も想像していたものより大きかったのか動揺していたがそのまま突っ込んだ
「せい! あれ、どこに──」
ジャイアントラットは蓮太郎の早業を交わすと横に飛び移った。そして前歯を突き出し突撃する
「速いですね、誰かさんみたいでした。でも──それなら対策済みです!」
蓮太郎は素早く横に向くと剣を横にして目をつぶった
そして──
「──『焔横薙ぎ一閃』ッッ!」
蓮太郎の持つ剣は炎に包まれ神速ともいえる速さによってジャイアントラットを真ん中から上を切り飛ばした
「中々、楽しかったですよ」
そう言うと蓮太郎はサイの方を向いてこくりと頷いた。次は確か──
「いでよ、死霊騎士」
その言葉とともにドームの真ん中に紫色の風が巻き起こる。風が止み、そして……死霊騎士と呼ばれる黒いオーラを放った騎士がそこにいた
「強そうですね……でも、負けませんよ!」
先手必勝、蓮太郎は刺突の構えで死霊騎士に突進した。死霊騎士はゆっくりと手を前方にかざすと黒色の盾を具現化した
「なっ、くっ……『焔火扇』ッッ!」
盾が現れたことに動揺しつつも適切な技を繰り出す蓮太郎は盾を見事に破壊して回転しながら横構えをとる
「『焔横薙ぎ一閃』ッッ!」
死霊騎士はその横薙ぎの技を左腕で受けた、左腕はそのまま切り飛ばされたが残った右腕は拳を固めて蓮太郎のがら空きの腹にぶち込んだ
「う……ぐ、は、はぁはぁ。これは予想外ですね」
死霊騎士はゆっくりと蓮太郎に近づいていく
「でも、時間は稼げました。これで終わりです『焔絶門流氷舞』ッッ!」
炎の剣の周りに氷の礫が具現化しそのままグルグルと回転しながら死霊騎士の体を突き破った。死霊騎士はそのままばったりて倒れ、霧状になっていなくなった
これで蓮太郎の序列は十万位から五千位となった。死霊騎士であの強さなら次のフェンリルはどれくらい強いのだろうか、日本にいたころ見ていた小説ではフェンリルは通称初心者殺しと呼ばれていた。その強さはとんでもない反応速度と速さ、そして圧倒的な攻撃速度である
「次は、フェンリルですか。どうせならこれも倒したいですね」
鉄格子が開き、中からゆっくりと歩むフェンリル、歩く度に氷の瘴気が辺りに漂う。そうだ、フェンリルは確か氷属性、それなら蓮太郎は勝てるかもしれない。炎魔法対氷属性なら圧倒的に炎が勝つに決まってる
「グルルルルル……」
フェンリルはゆっくりと蓮太郎の周りを歩いている、隙ができたらいつでも飛びかかれるということだ
「ふむ、では今回は後手に回りましょう」
そう言うと蓮太郎は剣を軽く上に投げた
「ガルッ、グルァァァ!」
当然、そんな隙ができたら襲わずにはいられない、それが罠だったとしても
「剣がなくても、魔法があるんですよ『フレイムランス』」
「グァ!? ガルルルルル」
さすがに炎の槍を避けたフェンリルは警戒しながらも蓮太郎に突撃した、ジグザグに移動しながらとんでもない速度で
「あ、そろそろ剣が落ちてくる頃ですね。危ないですよフェンリル、さん」
「ガルァァァ!」
蓮太郎に爪が届く──その瞬間上から落ちてきた剣、炎をまとった剣がフェンリルの背中を突き刺す
「これで動けませんね『フレイムランス』」
動きを封じたフェンリルにトドメの一撃を放った蓮太郎は剣を引き抜き頭を切り飛ばした
これで蓮太郎は序列千位へ昇格したのだった。サイと王様は唖然として見守っていたがやっと膠着が解けたのかドームから蓮太郎を退出させた
その後、颯汰、隼人の2人も序列が千位に上がっていた
そして最後、如月楓の出番となった
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こんにちは、月夜椎名です。
まずは挨拶を、今回も最後まで見てくれてありがとうございます
第2話の題名は~裏切られた現実~です。成り上がり系ということでこの先の展開も予想している方も多いでしょう、引き続き読みやすく面白い物語をつくっていきます
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それではまた第2話の後編でお会いしましょう
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