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裏切られた現実 後編
<3>
如月楓は剣を片手にドームの中へと入った。王様は明らかに期待もしてないような視線を送ってくる、サイに関しては興味も無さそうにゴブリンの入っている鉄格子を開けた
「グギャギャ!」
中から見慣れたゴブリンが三体棍棒を振り回しながら出てきた。ゴブリンは楓を見やると下卑た笑みを浮かべながらゆっくりと近づいていく
──ゴブリンにすら舐められてしまった楓は歯を食いしばり剣を握る手に力を込める。勇者としての素質もスキルも称号もなく他の勇者にすらバカにされ、王様やその周りの人間にも飽きられてばっかだった。この三日間どれほど鍛錬をしたか覚えていないほど本気で取り組んだ
それも、努力は必ず報われるという言葉を信じていたから。素質がなくても、スキルに頼らなくても自分で積み上げてきた経験が強さの糧になると、努力の成果に繋がると信じて
「俺は──勝つ!」
まずは右端のゴブリンへ狙いを定めてダッシュする。日本にいた頃は走るのも速かったこともありあっという間に距離を詰める
「グギャ?」
ゴブリンがやっと気づいたがもう遅い。ダッシュ体勢のまま剣で撫でるように喉元を切る、赤い鮮血が飛び散り、そしてゴブリンは倒れた
あっという間に仲間が倒されたゴブリンは驚きながらも二体同時に襲いにかかってくる
「さすがに、ゴブリンは弱いんだな」
近づいてきたゴブリンの顔面に剣を突き刺し隣のゴブリンが振り下ろしてきた棍棒も切り飛ばす。獲物を失くしたゴブリンは素手で掴みかかろうとするが見事に回し蹴りが命中
「これで、トドメだッッ!」
最後の一匹にトドメを指した楓はサイを見やりこくりと頷いた。次はジャイアントラットだ、油断はできない。蓮太郎は初見でジャイアントラットの素早さを見誤っていたのだ
サイが鉄格子を開けたのを確認して剣を構え直す
「え」
一瞬だった、鉄格子が開いた刹那の間にジャイアントラットは前歯を突き出して突撃してきたのだ。反応速度がギリギリ追いつき剣でガードしたが後方にぶっ飛ばされる、かなり重い攻撃だ
「な、んて速さだ」
サイが不安そうにこちらを見るが無視をする、こんなとこで諦めたら他の勇者は序列千位なのに楓だけが序列八万位という結果になってしまうのだ、せめて一万位でいい。こいつだけは倒したい
「こいつ、だけは」
剣を構え直し、ジャイアントラットの横腹目がけてダッシュする。大きい動物や前方への突進力の高いモンスターは小回りが効きにくいはず、それを信じてダッシュする
「倒すッッ!」
思った通りジャイアントラットはすぐには横に向き直せないようで僅かだが隙が生まれた。その気を逃すはずもなく渾身の一撃を横腹に繰り出す
ジャイアントラットは苦しそうに呻くが最後の力だと言わんばかりに突撃してきた。まさか攻撃がくるなんて考えもしていなかった楓はガードが間に合わず直接突撃をくらってしまった
「が、はっ──ぐ、あがぁぁぁぁ!」
肩に激痛が走る
脱臼したのか分からないが左腕がぷらぷらと動かなくなった。生まれて初めての痛みに恐怖と不安が生まれてくる
「ま、だ、まだ終わってねぇ!」
ここまでと判断したのかサイがジャイアントラットを止めようとしたがそれを全力で止める。あのモンスターもあと少しで倒せるはずだ、瀕死なのはどっちも同じ。それならば
倒さなければならない、ここで諦めたらダメなんだと、そう思い込み再び剣を握る
「これで、終わりだぁぁぁぁぁ!」
もう終わったと思い込み油断していたジャイアントラットに再度渾身の一撃を繰り出す。今度こそ血しぶきを上げながら倒れていった
「ふぅ、ギリギリだったな……」
サイはそこまでと言うと楓にドームから出るように指示した。当然だ、ジャイアントラットに苦戦した挙句瀕死の体で死霊騎士に勝てるはずもない。王様は明らかに落胆した様子を見せている、最初から期待もしてなかったくせに──そういいたいのを我慢してドームから出る
「勇者様、此度はおめでとうございます。ステータスボードを確認なさればお分かりかと思いますが念の為言わせて頂きます、佐藤蓮太郎様、三浦颯汰様、小泉隼人様三名の序列向上により序列十万位から序列千位へ、如月楓様は序列十万位から序列一万位へ。以上となります」
異世界にきてたったの三日で他の勇者とこんなにも差ができてしまったことに悔しさが込み上げてくる。もしかしたらこのまま努力しても──なんて思いたくもなくこれからも努力し続けようと誓った
そうして今日はこれで解散と言われ楓は部屋に戻りゆっくりと休むことにした。明日はダンジョンの説明とレベル上げの説明が行われる、サイが言うにはいまスキルがなくてもレベルが上がることによってスキルが増えることがあるそうだ、それならレベル上げを頑張ろうと思うことができたのだ
「明日のことは明日考えるか、それにしても明日はダンジョンに王子もくるのか。見たことないけど王直属騎士団の団長を務めているらしい、それならかなりの腕だろう」
あくびを噛み締めながら目を閉じてベッドに身を任せる。明日が──楽しみだ
<4>
「今日1日勇者殿と一緒にダンジョンへ同行することになったカリオンだ! 今回の目的はダンジョンの説明と実際の攻略、レベルアップについての説明とスキルの習得について教える」
やっとダンジョンに入る日がやってきた。もしかするとレベルアップでスキルを習得できるかもしれない、そう思うだけでまだ強くなれるという理念が生まれてくる
「ダンジョンはこの扉から入る。このダンジョンは冒険者に成り立ての初心者が挑むようなとこだが、あえてそこを選んだ。ここは全五層でできている、一層ごとにボスがいるから今日はそうだな……」
王子ことカリオンは楓のほうを心配そうに見つめるが大丈夫だろう、と言って順に指を指していった
「第一層の攻略を手本として私が行う。二層を蓮太郎、三層を颯汰、四層を隼人、五層を楓に任せる。心配はない、ボス以外はどれもゴブリン程度の強さでボスもジャイアントラット程度の強さだ。問題はあるまい」
なるほど、それならなんとか倒せそうだ
「それではまずはダンジョンに入るが…一人一体はモンスターを倒してこい! 一層のボス戦の前にレベルアップとスキルについて説明を行う!」
四人は無言で頷くとカリオンに続いてダンジョン内へ足を踏み入れた
中はひんやりとした洞窟だった。ひんやりとしてるのは周りにある氷結晶石と呼ばれるものが至る所にあるからだろう、その石からは青白い光が放たれており洞窟内だが暗くなく、むしろ神秘的な洞窟というイメージが湧いてくる
「よし、きたな。まずはあそこにいるゴブリンを一人一体倒してこい」
その言葉とともに蓮太郎がゴブリンを瞬殺する。そして颯汰が蓮太郎の後ろから炎の球を打ちだしてゴブリンを焼き尽くす
「はぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
気合一閃とはまさにこのことかもしれない。それほどに気合いの入った光の剣をゴブリンの頭部に突き刺す、オーバーキルすぎる
残り一体となったのでようやく楓も動き慣れた動作でゴブリンの首を切り落とす
そのときステータスボードが淡く光った──ように見えた。気になって取り出すとレベルが一から二へと上がっていた
「その調子でレベルアップをしていくぞ!この階層はゴブリンしかでない、急ぐぞ!」
数分後
大きな門の前にたどりついた勇者一行はボス部屋と思わしき部屋の前にいた。レベルはここにくるまでに四レベルまで上がっていた、試しにカリオンのレベルを聞くと四十三だと言われ驚いた。王直属騎士団の団長でも四十三レベルということは、この世界では四十を超えれば団長クラスということになるのではないかと結論づけた
「それではボスの扉を開ける、お前たちはそこで見ていてくれ。戦い方をよく見て学べ。蓮太郎は速さに頼りすぎるな、周りをよくみて戦うことを学べ。颯汰は魔法の攻撃力は高いが避けられたり、耐えられたらその後の隙によって負けるぞ。隼人はやり過ぎな攻撃は控えたほうがいい、そのモンスターにあった攻撃手段を用いろ。楓は無理はしなくていい、自分にあった戦い方を見極めろ」
全員にアドバイスをしたカリオンは扉を開けて中に突っ込む
事前に教わった通りではこの部屋はゴブリンロードがいるらしい
だが扉を開けて中を見るがゴブリンロードらしき姿はどこにも──あった、部屋の隅にそれらしき死体が転がっていた。部屋の中にはゴブリンロードだと思われる死体があるだけで他にはなにもなかったのだ
「なんだ……? 何故先にボスモンスターが倒されている、おかしい」
そこで楓は気づいた、否。気づいてしまったのだ
「シュルルルルル」
天井に張り付いている骨形のムカデを
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こんばんは、月夜椎名です。
昨日ぶりですね、今回はもっと先まで書こうと思ってましたがそれだと区切りが悪くなってしまうため途中で終わらせました。
とりあえずはこれで第2話後編を終わります
次回は第3話前編でこの続きを書こうと思います。メインシナリオはおそらく第4話から始まると思います
最後にお礼を、最後まで閲覧してくれてありがとうございます。よければ応援スターを押してくださるとこれからの励みになります
それでは次回でお会いしましょう
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