古の魔女と猫 前編

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古の魔女と猫 前編

<1> 人はこれまでに感じたことのない恐怖を抱くと体が動かないらしい ボスモンスターは基本的にレベルというものが確定しており事前にカリオンから教わったこの一層のボス──ゴブリンロードのレベルは10。つまりいまの楓でも頑張れば勝てる程度 しかし真上に存在している骨形のムカデモンスターは明らかにレベルが高い、その証拠にゴブリンロードは既に死体となっていた。おそらくはこのモンスターにやられたのだろう、ここで疑問になるのがなんで、なんのためにとなる 「まさか……こいつは!」 カリオンは信じられないと言わんばかりに何度もモンスターを見やる。その時だった 「シュルルルルル……」 骨形のムカデは地面に降り、カリオン含めた勇者四人を威嚇する 「カリオンさん、僕ならあのモンスター倒せますよ! みててください!」 蓮太郎は炎魔法(フレイムランス)を同時に三本の具現化に成功。同時発射、と同時にモンスターの横側へと駆け抜ける。おそらくフレイムランスは囮として放った魔法なのだろう、その隙に倒すという戦法にみえた しかし、結果はよくなかった 「馬鹿か、蓮太郎、すぐに戻れ! 死ぬぞ! 今のお前が勝てる相手ではない!」 カリオンが必死に蓮太郎を止めようとしたが先に動いたのはモンスターだった 「《焔火扇》ッッ!」 蓮太郎の放った焔火扇は見事モンスターの骨を砕き切った。では何故カリオンは止めようとしたのだろうか 「シュルル──シャァァァァ!」 切られた部位がいつの間にか再生しており怒ったモンスターは大きな毒牙を蓮太郎に向ける。蓮太郎はなにが起こったのか理解ができていないようだ 「蓮太郎、俺が助けてやろう!」 「勇者三人でかかれば倒せる」 カリオンの制止も聞かずに飛び出した隼人と颯太は同時に持てる最大の技を放った 「《聖槍召喚》──光魔法、槍術合体! 光を解き放て、《光槍乱突》ッ!」 「二属性魔法合体技(水風弾)ッ!」 「シュルァァァァァァァァァァァ!」 骨形のムカデを頭部ごと吹き飛ばし残った骨をも粉砕した、これが勇者の力だと思うととてつもなくすごい力なんだなと改めて実感した 「蓮太郎、隼人、颯太! 何をやっている! はやく逃げるぞ!」 明らかに倒したように見えたがもしかするとあのモンスターはまだ生きているのだろうか、確か蓮太郎が攻撃したときも再生していたがそんなまさか…… 「シュルル……シュルルルルルルルルル」 ゆっくりと奥のほうを見ると憎悪に目を光らせた骨形のムカデ、モンスターが低く唸っていた 「なんでだ! あのモンスターは俺が倒したはず!」 「違う、俺の魔法で倒したはずだ」 こんな状況下でさえ自分が倒したと言い張る颯太と隼人に楓は落胆していた。こんなことで喧嘩するなよと思う しかし現状はあまり──いや、かなりよくないようだ。勇者三人の攻撃を喰らって尚再生して動いてるモンスターだ、勝てるわけがない 「いいか、あのモンスターはレベル80だ。本来はこんなとこにいるはずがない未知のモンスター、ついた名前が《死骨百足》、現状勝てる見込みもなければ逃げれるかさえもわからない」 その言葉を聞いて蓮太郎と颯太は顔色を変えて後ろへ引き下がる、しかし隼人は尚もモンスター──《死骨百足》に向き直ると槍を構えた 「おい、隼人! さっさと戻ってこい!」 カリオンがそう叫ぶが隼人は完全に無視をして目の前のモンスター目掛けて突っ込んだ 「こんなモンスターに、勇者である俺が負けるわけにはいかないんだぁぁ!」 間に合わない、モンスターは既に尻尾を隼人の真後ろへ移動させている、終わりだ。もう助からない 「く、そが! 隼人!」 俺は持てる限り全力の走力で隼人と所まで走り、背中を掴んで後ろへ放り投げた 「──ぁ」 直後体全体に重い衝撃と激痛が走る そして、尻尾がまたこちらに落ちてきた 「ぐ……楓、よく隼人を後ろへ戻してくれた。礼を言おう、だからお前もさっさと戻れ」 その尻尾攻撃を大剣で防いだカリオン 瞬間的に助けられたんだと自覚した 楓も急いで戻るため痛みに耐えながら後方へ走る、しかしその横をものすごいスピードでカリオンが飛んでいった 「がはっ……!」 「カリオンさん!」 蓮太郎が急いでカリオンを抱きとめおんぶする 楓も追いつかれそうになりながら出口を目指す、既に隼人と颯太は出口から出ており蓮太郎も出るところだった 出口へ着く、と思った瞬間扉が閉まり始めた。ギリギリ、間一髪外へ出れた楓は息も絶え絶えでかなりの痛みに耐えながら座り込んだ 「カリオンさんは、息がある。まだ生きてる 急いで王宮へ戻ろう」 蓮太郎はそう言うとカリオンを背負いながら外へ向かって走り出した。続いて颯太、隼人、楓も走る 王宮へ戻ったとき、サイは背負われているカリオンに気づいたのか顔色を変えて王室へ駆け込んだ。その後医師らしき人間がきてカリオンを連れていった 「勇者様、よくご無事で。話はこれから王様とお聞きしましょう」 サイはそう言うと楓たち四人を王室へ案内した ──扉を開けて真っ先に目に映ったのは苛立ちを隠そうとしてるのかしてないのかわからない王様だった 四人とサイは部屋に入ると王様の近くへ進んだ 「それでは、なにがあったのか説明をしてくださいませ」 そう言うと隼人がとんでもないことを平気で口にした 「アルベール様、実は第一層のボス部屋にはとても危険なモンスターがいました。カリオン……いえ、カリオン殿が言うには《死骨百足》というモンスターらしく、カリオン殿の指示のもとすぐに撤退しようと思い私はすぐに後方へ下がりました」 嘘だ、嘘だ。隼人はカリオンの制止も聞かずに飛び出したではないか、蓮太郎と颯太を見るが二人は揃って目を合わせようとしない。いつの間にか隼人と打ち合わせでもしたのだろうか 「それなのに、楓が倒せるだのと言いまして一人あの凶悪なモンスターにむけて飛び出したのです。もちろんカリオン殿は止めました、 しかしそれすらも聞かずに攻撃をしかけた楓はこの通り怪我をしてしまいました」 それも嘘だ、俺が怪我したのはカリオンの制止も聞かずに飛び出した隼人を助けたからだ。そう言いたいのに何故か言葉にでない 「怪我をした楓を助けるためカリオン殿は身を呈して楓を守りました、その結果が……」 そこで言葉を止める。王様に伝えるにはこれで十分だったのだ 隼人の言葉には嘘と真実が練り混ぜられていた、嘘に真実を混ぜることによってこちらも反論しにくく、余計に真実だと王様に思い込ませることができる。そう考えたのだろう 「そうか、勇者楓よ。いや貴様は勇者のくせに我が息子を危険に晒し挙句の果てに指示を無視して息子に怪我を負わせた! そもそも貴様は勇者だというのに無能だ、それなのにモンスターに挑むこと自体が我が国の恥なのだ! 貴様のせいで我が息子は……ッ!」 隼人の嘘を完全に信じ込んでいる王様は仕切りに我が息子は、我が息子は、と言いながら楓のことを無能の勇者だと貶める 「そんな嘘、簡単に信じるのかよ」 この言葉を口にするだけで限界だった 「言い訳をするな見苦しい! 貴様は二度とこの王宮へ入ることを許さぬ、部屋も今日中に綺麗にしてこの王宮から出ていけ! 一応は勇者でなければ死刑にしていたところだ、感謝するんだな!」 あぁ、そうか 「これだから、無能の勇者はな」 あぁ、そうだよな 「スキルもなければ称号も持ちえない勇者が仲間だなんて恥ずかしいですもんね」 こいつらは、俺をスキルもなく称号もない勇者という理由だけでここまで貶めることができるのか 「ほんとだ、俺は止めたんだ! なのにこいつが勝手な行動をするからカリオン殿はッ」 信じていたのに、努力すればいつかはこいつらと笑いあって助け合って冒険ができるんだと 「さぁ、早く立ち去るがよい!」 俺は──こんな奴らの私情のために貶められ侮辱され地位も居場所も失くして明日の生きる理由すら奪われなければならないのか あぁ、そうか。それがお前らの考えか 「勇者殿、王様が気分を悪くなされます。いつまでも立っていないで立ち去って頂けませんか」 許さない、許さない許さない許さない 俺を無能だと侮辱するのはまだいい、現実は受け止める。だがありもしない無実の罪を擦り付け王様に媚びを売るこの勇者三人はどうしても許せない 「ええい、勇者殿。この無能を早く外へ放りだせ!」 必ず、見返してる…… 今度は俺が、お前らを見下してやる 俺は──── 「じゃあな、楓。せいぜい頑張れよ」 隼人はそう言うと下卑た笑みを浮かべたまま楓を外へ放り出し扉を閉めた <2> 荷物をまとめ王宮から外へでた楓は自分の所持品を確かめていく。いつもの衣服に銅貨が60枚、銀貨が50枚、安物の片手剣だけだった ひとまず今日泊まれる宿を探そうと辺りを探してみることにした 何分か歩きようやくそれらしき宿を見つけ中に入る。中に入るとガタイのいいお兄さんという感じの男性がぶっきらぼうにいらっしゃいと出迎える 「とりあえず一週間ほど泊まりたいんだがいくらだ?」 店員は指を五本だしてそこから七回横に振った。つまり銀貨合計35枚ということだろう、銀貨を渡そうとすると店員は今度は口にして 「うちは泊まれるベッドを貸すだけだ、料理はついてねえから銅貨35枚でいい」 それならば、と銅貨を35枚店員の手のひらに置いた 「ニャー」 ふと近くで聞き覚えのある猫の鳴き声がして辺りを見回した。しかし猫なんてどこにもおらず、店員には聞こえていないみたいだった 「ひとまず外に出る、また来るからその時部屋を教えてくれ」 そう言い残すと楓は宿の扉を開け先程鳴き声が聞こえた辺りを辿ってみることにした 「ニャー」 今度ははっきりと近くで聞こえた。このまま真っ直ぐ行くが左と右の道に別れる 「ニャー」 右からだ、右の道へ足を踏み入れ走っていくとそこには── 「ニャー」 見覚えのある、どこか懐かしい感じのする白い猫がいた 「お前、なんでここに?」 「お前じゃないよ、猫宮咲。名前、言わなかったっけ?」 そう言うと猫は一回転して人間の姿になった、何度見ても可愛く、美しい。綺麗で澄んだ青い瞳に方まで伸ばした白髪、そして柔らかそうな猫耳、体型は中学三年生くらいだろうか。身長はまだまだ小さくどう見ても150 cmあるかないかだった 「まぁいいや、改めてこうしてキミと出会えることができて私は嬉しいよ」 「キミの勇者としての力、気にならないかい?」 いま、なんて言ったのだろうか。聞き間違えでなければこの少女は楓の勇者としての力をなにか知ってるのか? だとしたらなんで? 「私はキミを強くすることができる」 「キミは、強くなりたいかい?」 ──────────────────── こんばんは、月夜椎名です。 今回は前回の2話の後編に続きまして新しく3話という形で書かせてもらいました。 少しずつ文字数も増えてきて執筆に時間がかかってしまいますがなんとか毎日更新していけたらなと考えております。 最後まで見てくれて本当に嬉しいです そのまま下の方までスクロールして応援スターををぽちっと!してくれるとこれからの励みになります。次回は3話の後編です それではまた会いましょう
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