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車道の靴
ある夏の出来事でした。私は仕事帰りで車を走らせていました。
整備された大きな道路は混む時間帯だったので、地元の人もめったに使わない山あいの道を帰路にしていました。
すると道の端に何かが落ちていました。
あれなんだろう。
しかしわざわざバックして見る気も起きず通り過ぎてしまいました。
まぁいいか。
そう思っていると、また視界の端にカラフルなものを捉えました。
あれ、また?
さすがに気になってきた私は車の速度を落とし、歩道の方を注意深く見ながら走行しました。
するとすぐに青い何かが見えてきました。
目を凝らしてみると、それは子供の靴でした。5歳位の子が履く小さなサイズのもので、何故か片方だけ落ちています。
誰かが忘れてしまったのでしょうか。
でも前に見かけた2つはどちらも青色ではなかったような…
私はなんだか不気味に思えてきました。しかし一本道のためそのまま車を進めるしかありませんでした。
その後も等間隔で子供の靴が落ちていました。しかもどれ1つとして同じデザインのものはありません。
こうなると誰かが落としたと考えるのは無理があると思えてきました。片方だけ落とすことがあまりなさそうですし、何より道端の靴は直線上に一定の距離を保っておいてある…そう落ちているというより置いてあるのです。まるで誰かの足跡をなぞるかのように……
靴の後を追っていくと、神社に到着していました。赤い鳥居が闇の中にぼんやり浮いています。
あれ…こんなところに神社なんて…
寒さが背中を這い上がりました。
もう帰ろう…
そう思いながらも車を停めたまま動けずに居ました。
私はダッシュボードから懐中電灯を取り出すと、車の窓から腕を突き出して照らしてみました。
見えるのは小さな山とそれを利用して建てられた神社だけでした。
公道に面した地面に大きな鳥居があり、そこから登り階段が伸びています。
やっぱり、ただ神社があるだけじゃない。ここで引き返して後であれこれ考える方が怖くなる、そう考えた私は車から降りました。
懐中電灯を照らしたまま階段を登りきると、身体が硬直しました。誰かいる。
光が揺れた一瞬人影が見えた。周囲はじっとりと暑いはずなのに冷たい汗がはりつく。そのまま何分何時間経ったかかわかりません。息が止まっていることも忘れ、目をきつく閉じたまま立ち尽くしていました。
しかし何も起きません。
意を決して片方ずつ目を開けると、10メートルほど先に地蔵がぽつんと立っていました。
ほっ…
張り詰めていた息を吐き出す。これを人影と見間違えたのか…よかった。私は地蔵に背を向けるとゆっくりと石段を下っていきました。
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