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「――なあ、本当に行くのかよ?」
シンタは、少し諫めるような語気で、前を歩くユウキに尋ねた。
「当たり前だろ! なんだよお前、怖いのか? 怖いなら、別に帰ってもいいんだぞ。おれ一人で行くからな!」
ユウキは鼻息荒くシンタに返したが、シンタはその返事に溜め息をつく。
それで本当に帰ったら、困るのはそっちのくせに……。
怖がりの奴ほど、ホラー映画や怪談などに触れたがるのは何故なのだろうかと、シンタは不思議に思いながらも、幼馴染みの彼について行く。
「てか、なんで『血染めの足あと』なんだよ? 七不思議は他にもあるだろ。『笑顔の練習をするバッハの肖像画』とか、『図工室のマウント取り合う石膏像』とか、『社交ダンスする骨格標本と人体模型』とか……」
「そういうのじゃダメなんだよ! 全然怖そうじゃないじゃん!」
夜の学校で実際に見たら、結局どれも怖がる気がするけどな。
そうシンタは思ったが、声には出さずユウキの主張の続きを聞く。
「うちの学校の七不思議って、なんでか面白い感じのが多いだろ。今、お前が言ったやつみたいなさ。けど、その中で唯一、ガチホラーっぽいやつ。それが、『血染めの足あと』!」
「まあ、それはわからなくもないんだけど」
「肝試しするなら、本当に怖そうなやつがいいだろ。それに、これは誰も実際に見たことがないって話だし。せっかくだから、卒業する前に確かめてみようぜ!」
「見た人がいないってんなら、なんでそんな話が広まってるんだよ。作り話じゃねえのか?」
「作り話かどうかの確認もできるんだから、いいだろ。文句言ってないで、行こうぜ」
そもそも作り話だから誰も見たことがないのではと、シンタは内心突っ込む。
ユウキのこの調子はいつものことではあるのだが、あまりにも自分の意見ばかりを振りかざす彼に、シンタは少々苛立ってきた。
「……見た奴がいないってのは、『足あとの先にあるっていう死体を見たら、帰ってこられなくなるから』、なんてことじゃないのか?」
通常なら我慢して言わないところだが、腹いせに思ったことを言ってみた。
途端、景気良く前に進んでいたユウキの足が、ピタッと止まった。
シンタは、ユウキのその反応に、おっ、と自身も足を止め期待する。このまま怖気づいて、やはり家に帰ろうと言うことを。
しかし。
「……そういうのも確かめに行くんだろ! いいから、行くぞ!」
むしろ火に油を注ぐ結果になってしまったようで、ずんずんと歩みを再開してしまった。
「……それ、確かめちゃったら、オレたち死ぬってことになるんじゃないのか……?」
げんなりしながらも、やはり放ってはおけず、シンタは腹をくくってユウキの後を追いかけた。
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