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いつも振り返ってくれるのに、決して触れさせてはくれない。決して触れさせてはくれないのに、そうして笑いかけてくれる。
駐輪場から離れて、ハルは人気の少ない裏の近道へ足を向けた。
ぽつ、ぽつ、とできるハルの足跡はもう遠くない。頑張らなくても届く距離になった。
僕はそっと、慎重に、ハルの跡に僕のそれを重ねる。
ねえハル。僕はあれから、ハルと同じ靴を求めてないんだよ。あの頃はハルの方が大きかった足跡も、今では随分違ってしまった。ハルの足跡に、もう僕の靴はすっかり収まらない。
僕は後ろを振り返る。
途中で一つになった線。上から重ねたら、ハルの足跡はなくなってしまう。あの頃と同じで足跡は違うのに、僕とハルが歩いたことは分かるだろうか。
ハルのつけた足跡を踏む、その後ろめたさの色を今の僕は知っている。ふつりと胃の奥から湧き上がる、不思議だった感情の正体も。
知らずと漏れた白い息は、生まれた瞬間に消えていく。
僕は前に向き直ってゆっくりと、真新しくない雪の上に靴底を下ろした。
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