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何でだろう。
用がなければ来てはいけないんだろうか。教えてもらいたいことがなければ、ハルに話しかけてはいけないんだろうか。昔は何でもないことで話をしたのに。黙ったままでいたことなんて、何度もあったのに。昔は他の人のことなんて――異性の話なんて、そんな風に僕に言わなかったのに。まるでその関係を期待するみたいに。
僕との間に見えない線を引いたようでいて、何で、そんな顔を見せるんだろう。
「何してたの?」
「論文読んでた。ハルは?」
「うーん、散歩? こもってたから気分転換」
「散歩って、この雪の中で寒――」
っしゅん。
ハルがきょとんとする。こらえようとして失敗したくしゃみに鼻をすすると、ハルがふき出した。
「そんな格好で出てくるから」
人のこと言ってる場合じゃないね、と言うハルはコートをきっちり着込んで、マフラーと手袋もつけている。ハルは首元に手をやると、するするとマフラーを解き始めた。タートルネックに覆われた白い首が露わになる。
子どもの三つは大きかった。僕にとってハルは随分と大人で、お兄ちゃんで、格好良くて、けれど僕と同じように――たぶんそれ以上に、感情に素直だった。
大人の三つは小さい。大きく違った背丈も差が減った。ハルができること、僕ができないこと。僕が順番に穴を埋めて、違った結果もほとんどなくなった。
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