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「ほら」
マフラーを持ったハルが僕へと手を伸ばす。後ろへ手を回そうと、踵がわずかに地面から離れた。
伏し目になったその顔を、今の僕は少し上から眺めている。
くるりと温かさが首を覆って、清涼な匂いが鼻先をくすぐる。柔軟剤かシャンプーか、わずかでも動いたら触れてしまいそうな距離に脳裏がちかちかして、答えが出る前に雪の匂いが間を割った。
うん、とハルが呟いて、僕の首元を軽く叩く。確かめるように上げた顔が少し驚いて、すぐに一歩、後ろへ下がった。
「……ありがと」
「あ、うん、どういたしまして」
自分でやったくせに、ハルはふいと目をそらした。
「じゃあ、早く戻りなよ」
「ハルは?」
「コンビニ」
大人の三つは小さい。そう思っていた。けれどハルとの差は埋まるどころか開いている気がする。必死で走って追いついたと顔を上げた瞬間に、先を進む背中を見る。手を伸ばせばと思ったら、その先でやんわりと避けられる。
「僕も行く」
「――財布持ってる?」
「……ある」
「もう」
僕の嘘にハルが苦笑する。財布どころかスマートフォンも持っていない。
「じゃあ三百円までね」
「遠足のおやつか。あとで返すから」
「はいはい」
ハルはまた笑った。
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