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野暮なことは露とも思わず、目の前に広がる光景の綺麗さにただ腕を広げ、そこから溢れる期待を予感していた。
僕の手は自然と窓に引き寄せられ、鍵に手をかけて回すと小さな音がなった。ぴちりとくっついた窓に力を込めると、途端にばっとガラスが動いて頬に冷たさが貼り付いた。
吸い込んだ空気は肺の奥まで澄み渡り、体が冬に浸かっていく感覚に陥る。眼下の雪景色と近づける気がして、僕は深呼吸を繰り返した。
ふと、静寂を踏みしめる音がして、僕は顔をあげた。
「!」
その姿を認めて、僕は窓から身を乗り出す。ああ、予感の正体はこれだったのだ。僕は確信した。そしてまたその音を拾ったかのように、ハルもふと顔をあげた。丸く開いた目が細められ、雪がほどけるようにふわりと笑う。
「アオ」
ひらひらと振った手で、ハルは僕を呼ぶ。ハルの後ろには一本道ができていた。歩いてきたのだ、ハルの家からここまでどれほどだろうか。想像するや否や僕ははたと身を翻して、上着をつかんで部屋のドアを開けた。しんとした空気が横たわる廊下を起こさないように、足音には十分と注意して階段をおりる。玄関で上着に袖を通しながら靴に足を突っ込んでドアを開けると、ハルが立っていた。
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