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「来ちゃった」
いたずらが成功した子どものように笑うハルの鼻は赤い。コートにマフラー、見慣れたはずの装備がいつもより明るく見えるのは、決して天気だけのせいではなかった。
す、と、僕より大きな手が差し出される。
僕の手は自然と引き寄せられて、ひんやりとしたハルの手と重なった瞬間に雪の中へと案内される。ぎゅむっと靴底が真っ白を踏んで、見渡した景色は部屋からよりもずっと輝いていた。
「……すごい」
漏れた声と一緒に息が生まれて消える。
「だよね」
ハルが満面の笑みを見せた。そう、今から思えば、世界が明るかったのはハルとここにいたからだ。ハルがいつもよりきらきらして見えたのは、ハルが僕とこれを共有しようとしてくれたから。
学校が休みの日の朝。ハルの家にも、ここに来る間にも、たくさんのハルの知り合いがいる。それでもハルは僕を選んでくれた。
この時の僕はそれを考えられないまでも感じ取っていた。いや、本当を言えば、考えられなくて良かったと思う。こうやってすぐに言葉に直せなかったからこそ、より鮮明に残っているのだと思うのだ。そのおかげで僕は、今でもこれを思い出すことができる。確かな記憶として持っていられる。
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