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綺麗な雪を求めてできていくハルの足跡。
僕はふと、その上に足を乗せてみた。
ハルが足を置いたところ。ハルの身体があった場所。そうっと、ゆっくり、一つ、二つ。いつもより遠い一歩をふみ出す。音はしない。足が沈む感覚もない。けれど振り返ると、それまでとは少し違う不格好な足跡ができていた。
胃の奥の方からふつりと、不思議な感覚が湧き上がる。ハルにほんのわずか近づいたような嬉しさと、とろりと仄暗い後ろめたさ。とつ、とつ、と胸を打つ心臓が響く。
「――アオ、どう?」
ぱっとハルが振り向く。僕は固まった。
なぜだかとっさに、しまった、と思った。引き出しの奥にしまいこんだ大切ながらくたが見つかったような、転んだと嘘をついた、どうしたって仕様のなかった喧嘩がバレたような、後ろめたさはそういう類に似ていたのだと、本能は知っていたからだろう。
ハルは真後ろにいた僕に少し目を見張って、それから、後ろに一人分の道しかできていないことに気づいたようだった。はたはたと瞬いてからじっと足跡に目をこらして、それから――ふっとふき出した。
「アオ、足跡たどってる?」
「……うん」
心臓がうるさい。僕は仕方なしにうなずいた。
ハルには僕の理由なんて関係ないようで、どうして拗ねるの、と笑った。
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